書籍『9条とウクライナ問題』深草徹著
H.O
ロシアがウクライナに軍事侵攻した。日本もいつ他国から攻撃されるか分からない。だから敵基地攻撃能力も備え、防衛力を強化し、防衛費も大幅に増やさねば―――。
いま日本政府はこうした動きを強めています。戦争を放棄し、戦力不保持を謳う憲法9条がいよいよ蔑ろにされようとしています。本書はロシアの蛮行を糾弾し、それを止めさせる展望を語りながら、日本国憲法9条を守り活かす重要性を説く書です。
なお本書の大きな特徴は、この課題に関わって、憲法を守り活かそうとする人々・運動の中の一部にある、懸念される主張に警鐘を鳴らしているところ、と言えそうです。本書のサブタイトルは「試練に立つ護憲派の混迷を乗り超えるために」です。「護憲派の混迷」という表現には少し違和感を覚えますが、ともに考えてみたいことが提起されています。
筆者がそれを大まかに整理するに、著者・深草徹氏が、「護憲派」の中にある、懸念すべきこととしている主張の一つは、市民の犠牲を最小限にするために、ウクライナは徹底抗戦一本やりを止め、多少ロシアに妥協してでも停戦に向かうべき、といった言説です。
もう一つは、一つ目とも関連しますが、人命尊重が日本国憲法9条の精神だとして、侵略された場合でも武器をとって戦うべきではないという言説・考え方です。
深草氏はこうした考え方を持つ、多くの人たちの中にある善意の気持ちを汲みながらも、他国からの侵攻への対峙の仕方も、戦争や軍隊に関わってどのような憲法を持つかということも、その国の人々が判断・選択することだと述べます。なお、国連憲章はいかなる国にも自衛権はあるとしており、憲法9条を持つ日本においても、主権国家として急迫不正の侵略を受けたときには、無抵抗を貫くのではなく様々な方策で対処することは当然、との考えも付け加えています。
深草氏は、この間のロシアのウクライナ侵攻の経緯を辿り、またNATOやアメリカ、あるいは国連等の対応、そして国際法・国連憲章の内容・意義などを確認しながら、日本国憲法9条を支持する日本国民に提唱します。武力による国境変更などを強行するロシアを毅然として糾弾する立場を堅持し、ウクライナ人民を支援し、国際法・国連憲章に基づきロシアの即時停戦と軍の撤収などを求めていこう、と。また、中長期的には世界各地で、アジアにおいても、国連と連携する地域的集団的安全保障体制を構築していく課題・展望も語っています。
世界各地での紛争予防と解決、日本の防衛のあり方、憲法9条、などについて自分なりの考えを整理しつつ、大きな方向性での一致点で行動を共にする、そんな議論を広げたいものです。本書はそのための素材を提供してくれます。
<書籍情報>
著者は深草徹氏(元弁護士。九条の会・ひがしなだ共同代表世話人)。2022年6月、あけび書房から刊行。定価は本体1,600円+税10%。
【最近刊行された憲法関連書籍】
『伊藤真の法学入門[第2版]講義再現版』伊藤真著 2022年11月、日本評論社から刊行。定価は税込 1,760円(本体価格 1,600円)。
『表現の自由の現代的展開』右崎正博著
2022年12月、日本評論社から刊行。定価は税込 5,720円(本体価格 5,200円)。
【最近公表された憲法関連文献】
篠原永明「統治構造において司法権が果たすべき役割 第3部(7)憲法24条の『婚姻』の意義と同性婚」判例時報12月1日号
久保木太一「いま、改憲論を問う」季刊人間と教育116号
前田朗「清水雅彦さん:法と立憲主義を考える(上) -安倍国葬の憲法論」マスコミ市民12月号
浦野広明「憲法の応能負担原則にも違反する インボイスは消費税増税への布石」週刊金曜日12月2日号
愛敬浩二「2022年参院選後の改憲情勢と私たちの課題」月刊全労連 2023年1月号
前田博史「なぜ、労働組合が『改憲』の動きに反対するのか」月刊全労連 2023年1月号
清水雅彦「『戦争と平和』を教える視点」教育2023年1月号
菅野真文「高校生のリアルと立憲主義」教育2023年1月号
◆法と民主主義12月号所収論文
丸山重威「なぜ、『国葬』が問題なのか -憲法と『戦前回帰』の相克」
永山茂樹「『安倍国葬』の法的根拠にかんする問題」
清水雅彦「歴史的比較と自衛隊の関与から見る国葬の軍国主義的側面」
永山茂樹「比較の目でみた『安倍国葬』」
永山茂樹「山口県における3回の葬儀」
飯島滋明「『戦争できる国づくり』を格段に進めた日米共同統合演習『キーン・ソード23』 -与那国島での訓練を中心に」
飯島滋明「憲法審査会と統一協会問題」