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浦部法穂の「憲法雑記帳」

 

第28回 「日米安保のない日本」を構想しよう


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2018年10月3日

 翁長知事の急逝に伴い6月30日に行われた沖縄知事選では、翁長路線を引き継ぎ米軍普天間飛行場の辺野古への移設拒否を訴える玉城デニー氏が、安倍政権の全面支援を受けた佐喜真淳氏に8万票の大差をつけて当選した。玉城氏が獲得した39万6千票という数字は、沖縄知事選では過去最高だという。辺野古移設に反対する沖縄の民意があらためて確認されたのである。安倍政権は、これまで、沖縄の民意を無視して辺野古新基地建設を強引に進め、政権の方針に従わないかぎり金はやらない、とばかりに「沖縄振興予算」を減額してきた。政権の支援を受けた佐喜真候補は、この現状に対し、国と対立するのでなく協調することで国からお金を引き出して生活支援や経済振興をすすめ県民の生活を豊かにすると訴えたが、沖縄県民の多くは、政権によるこのような卑劣で露骨な「兵糧攻め」にも屈しないという意思を示したのである。今回の選挙で佐喜真氏に投票した人のなかには、「いくら反対しても結局基地建設は強行されてしまうだろう。どうせ基地が出来てしまうのだったら、せめてお金をもらって少しでも生活が良くなるならその方がいい」と考えた人も、少なくなかったはずだ。国民に対してそんな選択を迫る政権は、まったくもって罪深い(ちなみに、「沖縄振興予算」というのは、他の地方自治体の場合にはその要求に基づいて所管府省ごとに予算計上される国庫支出金が、沖縄の場合には「沖縄振興特別措置法」によって内閣府の沖縄担当部局予算として一括して計上される仕組みになっていることから、「沖縄振興予算」という呼び名になっているだけであって、他の都道府県に対する国庫支出金と基本的に変わるものではない。沖縄は基地負担の代償として特別にお金をもらっている、というわけではないのである)。

 在日米軍基地・施設の70%が沖縄に置かれているという現状については、多くの人が知っていることだと思う。このような沖縄の超過剰な負担を正当化する理由は、どこにも見出せないはずだ。安倍首相は、以前、沖縄の負担軽減が進まない理由として「本土の理解が得られない」ことを挙げたが、では沖縄の理解は得られているのか? そうでないことは、今回の選挙の結果を待たずともはっきりしている。にもかかわらず、沖縄では理解が得られなくても基地建設を強行する。こんなことが許されていいのだろうか。日本政府は、沖縄を、少なくとも「本土並みの日本」のうちとは考えていない、としか思えない。そしてまた、沖縄以外に住む日本国民も、米軍基地が沖縄に集中している現状を、無自覚的に当然視しているのではないだろうか。沖縄の人々にとってみれば、これは差別以外のなにものでもない。

 このような沖縄に対する差別をなくすために、どうすべきか? 沖縄にだけ負担させるのでなく、沖縄にある米軍基地・施設を本土に移設して本土の各自治体も平等に負担すべきだ、というのは、一つの考え方である。そうした考えから、いま、本土のいくつかの地域で、沖縄の米軍基地を自分たちのところに引き取ろうという「基地引き取り運動」が立ち上げられている。各種世論調査によれば日本国民の8割近くが「日米安保条約」を支持し米軍駐留の必要性を認めている。だったらその基地・施設を日本全体で負担するのは当然ではないのか、というのはたしかに正論である。また、政府は「日米同盟」をいささかの揺るぎもあってはならないものとして、最優先としている。だったら、安倍首相は「本土の理解が得られない」などと無責任なことを言っていないで、たとえばまず自分の地元の山口県から、理解が得られるように説明を尽くし説得する努力をすべきである。そういう意味で、「基地引き取り運動」は、一定の「理」をもっているといえる。しかし、この運動がそのスローガンどおりに実ること、つまり沖縄の基地負担が他の自治体と同じ程度にまで軽減されるように米軍基地の本土移転が進むことは、まず見込み薄であろう。沖縄では、「米軍基地がもたらす痛みや恐怖の本当のところを知らないから、『引き取る』などと気楽に言っているのではないか」という冷めた見方もあるという。

 「世界一危険な基地」といわれる普天間飛行場、そしてその危険性除去のためと称して強行される辺野古新基地建設、あるいはこれらを含めた沖縄の米軍基地問題の根源は、「日米安保」の存在を当然の前提とし、「日米同盟」という言葉の前に完全に思考停止状態に陥っているこの国の政治そして「世論」にある。米軍の駐留が、その根拠となっている「日米安保条約」が、日本にとって本当に必要なものなのかどうか、その議論を経ずして沖縄の負担軽減はとうてい実現しないと思う。自分たちの地域に米軍基地が作られるということになれば否応でも駐留米軍や「日米安保」の必要性について真剣に考えざるを得なくなるだろうから、そのきっかけを作り「思考停止」状態を打破するという意味においては「基地引き取り運動」もありだとは思うが、本当に必要なことは、駐留米軍のいない日本、「日米安保のない日本」というものを構想することだと思う。

 「日米安保のない日本」の実現は、法的な手続だけの問題でいえば簡単である。「日米安保条約」第10条には「この条約が十年間効力を存続した後は、いずれの締約国も、他方の締約国に対しこの条約を終了させる意思を通告することができ、その場合には、この条約は、そのような通告が行なわれた後一年で終了する」と規定されているから、アメリカに対して「終了通告」をすれば、その1年後には「日米安保のない日本」になる。通告だけでよく、相手の同意は要しないのだから、簡単な話である。この、法的な手続としては簡単な話を、実際に実現するためには、「日米安保のない日本」がどのような国になるのかというきちんとした構想を描く必要がある。これは簡単な話ではない。思いつきでも何でも、とにかく皆で意見を出しあって議論していくしかないと思う。辺野古という差し迫った問題からすれば悠長にみえるだろうが、「日米同盟」で思考停止という状態からまず一歩を踏み出すために、米軍の駐留(「日米安保」)が日本にとって本当に必要なのかどうか、「日米安保のない日本」というのは本当に考えられないのかどうか、というあたりから、皆さんの考えを聞かせていただければと思う。



 

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