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浦部法穂の「憲法雑記帳」

 

第27回 「サマータイム」


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2018年8月27日

 今年の夏は、ほんとうに殺人的な暑さだった。そしてまた、「かつて経験したことのないような豪雨」を何度も経験することになった。台風もかつてないほどのペースで発生し、次から次へとやってきた。まさに「異常気象」である。それは、何も今年にかぎった話ではない。もう何年も前から続いている現象であり、徐々に徐々にその「異常」さは深刻化し凶暴化してきているのである。このままで行けば、来年も再来年も、同じようなことがもっと酷くなって頻発することになるだろう。温暖化対策は「待ったなし」である。

 そんな状況のなかで、2年後の2020年には、7月24日から8月9日まで、まさに酷暑まっ盛りの期間に、東京オリンピックが開催されることになっている(パラリンピックは8月25日〜9月6日)。はたして選手や観客がこの酷暑に耐えられるのかどうか、かねてより危惧する声はあったが、今年のこの暑さはその危惧を現実的な危険と感じさせるに十分なものであった。そこで突如出てきたのが、サマータイム導入論である。7月末に大会組織委員会の森喜朗会長が安倍首相を訪ねてサマータイムの導入を要請し、それをうけて安倍首相は、議員立法として超党派での成立を目指すのが望ましいということで、自民党に対して検討を指示したというのである。そして、与党では6〜8月を軸に数ヶ月だけ2時間繰り上げる方向で検討に入り、2019年に試験導入したうえで問題点を改善し2020年に本格導入する案が有力だ、との報道もある(「産経」の報道だから、嘘か本当かわからないが)。

 オリンピックのためにサマータイムを。こんなことを本気で考えているとしたら、一体この人たちは、どういう頭脳で、どういう思考回路で、ものごとを考えているのか。しかも2時間も繰り上げるって? 来年にも試験導入? もう1年もないのに。正気の沙汰とは思えない。サマータイムを導入して2時間繰り上げれば、たとえば7時スタートとなっているマラソンは、現在の5時が7時になるから、現在の8時くらいまでには競技を終えられ、酷暑のなかを走らなくて済む、ということなのだが、それだったら、なにも時間そのものを動かさなくてもマラソンのスタート時間を5時にすればいいだけの話である。それに、もしサマータイムを導入して2時間繰り上げるということになれば、たとえば現在の午後4時から開始予定となっている競技は現在の午後2時からという最も暑い時間帯に競技をしなければならないことになるが、それでいいのか? こちらのほうはサマータイムを導入した場合には開始時間を遅らせてサマータイムの午後6時(現在の午後4時)開始に変更するというのだったら、サマータイムにする意味はない、何のためのサマータイムなのか、ということになる。森会長や安倍首相や、首相の指示をうけて本気で検討している与党議員は、こんなこともわからないボンクラなのか? そもそもでいえば、7〜8月という時期に東京でオリンピックをやること自体が決定的な間違いである。1964年の東京オリンピックのように10月開催にすれば何の問題もないはずである。時間を2時間繰り上げるのではなく開催時期を2ヶ月遅らせる。それが一番まともな解決方法である。それができないのは、オリンピックが完全に商業主義に支配されてしまっているためであり、そうだとすれば、オリンピックを目指してひたすら頑張っているアスリートたちが、あまりに気の毒である。

 オリンピックのためにサマータイムを、などという、まともな頭ではとうてい出てくるはずもない話が政治の舞台で本気で語られるというのは、いまの政治家たちの頭脳程度を表していると同時に、「オリンピックのため」といえばどんなことでも通ってしまうという、この国の社会の「空気」のせいでもある。実際、昨年には、それまで大きな問題があるとして何度も廃案になった「共謀罪」法が、「オリンピックを控えたテロ対策」という名分のもとに成立させられてしまった。また、安倍首相は、オリンピック開催を機に「新しい日本」のスタートを切るのだとして、9条の変更を含む「改憲」を2020年施行という日程で成し遂げたいとして、オリンピックにかこつけて「改憲」を強行しようとしている。オリンピックのためのサマータイム導入論も、彼らの発想としては、これらと同じである。

 ただ、サマータイムに関しては、経済活動への影響・混乱も計り知れないだけに、各方面から否定的な意見が出されており、いまのところはさすがに「行け行けどんどん」という雰囲気にはなっていない。しかし、「オリンピックを成功させるためなんだから、ある程度の不都合は耐えなければ。日本人は勤勉で律儀だから、それくらいの不都合はみんなの力で乗り越えてみせるはずだ」的な「大和魂、お国のため」論で通ってしまうことも、十分考えられる。もしそうなったら、この国はもう立派なファシズム国家だ、ということになろう。



 

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