法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

浦部法穂の憲法時評

 

憲法尊重擁護義務


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2013年2月21日

 憲法第10章は「最高法規」という標題になっており、そこには、基本的人権の永久不可侵性(97条)、憲法に反する法律等は無効であること(98条)、そして公務員の憲法尊重擁護義務(99条)を定める3箇条の条文が置かれている。憲法は国の最高法規だということは、おそらく誰もが知っていることだろうが、多くの場合、それは、違憲の法律等は無効だという意味合いでのみ(つまり憲法98条の規定だけ)理解されているのではないかと思う。しかし、97条は、永久不可侵の人権を保障することがこの憲法の中心的な目的であるとして、憲法が最高法規であることの実質的根拠を示すものであり、また、99条は、憲法が権力担当者に向けられた規範であることを明記することによって、憲法の最も重要な基本的性格を明らかにしたものである。そういう意味で、最高法規ということの法的な意味を明らかにした98条以外に97条と99条という条文が「最高法規」の章に置かれていることには、重要な意味がある。

 さて、そのうちの99条の規定についてである。99条の条文は、こうである。「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」。「その他の公務員」とあるから、当然、およそすべての公務員がここでいう「憲法尊重擁護義務」を負っているわけだが、とりわけそこに名指しされている「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官」という国の中心的な権力を委ねられた者については、「その他の公務員」に率先して、この義務に忠実であることが求められているとすべきであろう。ところが、最近の国会議員や大臣のなかには、憲法上のこの義務をまったく無視している輩がいる。それも、決して少なくない数で。これは、国家として異常な姿である。

 その代表格が、「日本維新の会」代表の石原慎太郎氏である。彼は、東京都知事時代から、「現行憲法は無効だ、憲法を破棄せよ」と公言していたが、衆議院議員として質問に立った今月12日の予算委員会でもこの持論を展開し、「総理大臣が憲法破棄を宣言したとき、これを阻む法律的な限界があるか」との発言をしたという(朝日新聞2月13日)。要するに、内閣総理大臣が憲法破棄を宣言すればそれによって現憲法の無効が確定する、だから憲法破棄宣言をすべきだ、と首相に迫ったわけである。さすがの安倍首相もこれに直接答えることはしなかったようだが、こういう発言が国会の場で堂々と、それも相当数の議席を有する政党の代表の口からなされたこと、そしてまた、これを戒める発言は国会の場でも内閣からも出てこないということは、驚くべきことである。こういう発言をした石原氏は、憲法99条の義務に明らかに反しており、もはや衆議院議員としての資格を有しないとされるべきである。なのに、そのような観点からこの石原質問を報じたメディアは、これまでのところ、私の目についたかぎりではまったく見当たらない。日本の報道記者のレベルも落ちたものである。

 かりに石原氏が言うように、内閣総理大臣が「憲法破棄」を宣言しそれによって現行憲法の無効が確定するとしよう。さて、そのあとはいったいどうなるであろうか。憲法が無効だということになれば、内閣総理大臣や他の大臣も、国会議員も、その地位の法的根拠を失う。彼らが大臣や国会議員でいられるのは、あくまでも日本国憲法の規定に基づいてのことであるから、憲法が無効なら大臣でいることも国会議員でいることもできないのは当然である。つまり、内閣総理大臣が「憲法破棄」を宣言し現行憲法が無効になったら、その瞬間に、当の内閣総理大臣は内閣総理大臣でいられなくなり、また、他の大臣も国会議員もその地位を失うことになるのである。それでも彼らがなお総理大臣や大臣あるいは国会議員の地位にとどまり続けたとしたら、彼らは何ら法的根拠なく権力を奪取しているにほかならないこととなる。何ら法的根拠なく、つまり非合法的に、権力を奪取する行為は、すなわちクーデターである。石原氏は、内閣総理大臣が「憲法破棄」を宣言しても内閣総理大臣の地位や自分の衆議院議員としての身分はそのまま維持されることを前提に前記の質問をしているようだが、そうであれば、彼のあの質問はクーデターの唱道以外のなにものでもない。

 いまの憲法を破棄すべきだという考え方をもつことやそういう主張を唱えることは、国民としては自由である。だが、公職にあるものには、その自由はない。なぜなら、彼らは憲法99条によって「憲法尊重擁護義務」を課せられているからである。だから、石原氏がみずからの思想・持論を貫きたいと考えるのなら、彼は都知事にも衆議院議員にもなってはいけなかったのである。そして、くだんの質問が「日本維新の会」を代表しての質問である以上、同会としてそのような立場に立っているとみなさざるをえず、そうである以上、「日本維新の会」も在野の政治団体にとどまるべきであって公職の選挙に打って出るべきではないのである。「国会議員が国の一番基本となる憲法のあり方を議論するのは当然ではないか、むしろ国会議員の最も重要な任務ではないのか」という反論が聞こえてきそうだが、それも「憲法尊重擁護義務」の範囲内でのことであって、「憲法破棄」などという議論は明らかに一線を越えている。

 ことは、しかし、石原慎太郎氏や「日本維新の会」だけの問題ではない。「自主憲法制定」を唱える安倍首相や少なからぬ大臣・国会議員、また、それを党是とし「新憲法草案」を発表している自民党も、じつは同類である。もっとも、安倍首相も自民党も、現行憲法無効論には与しないようなので、その点では石原氏とは異なる。しかし、「自主憲法制定論」が現憲法を廃棄して新憲法を制定すべきだとする議論である以上、それは「憲法尊重擁護義務」とは相容れない。たしかに、国会には憲法改正の発議権があるが、あくまでも「改正」の発議権であって「憲法廃棄」や「新憲法」の発議権ではない。国会議員や国会の地位・権限が憲法にもとづくものであるという、しごくあたりまえの事理を理解していれば、このことは容易に理解されるはずである。それやこれや、どうも日本には、議員や大臣その他公職者の地位・権限が憲法に基づくものなのだという、ごくあたりまえの事理を理解していない政治家が多すぎる。平気で憲法を否定するようなことをいう政治家たちは、それが自分の地位・権限を否定することと同義なのだと気づくべきである。

 一般の国家公務員は、その職に就くにあたり、次のような宣誓書の提出が義務づけられている(国家公務員法97条、職員の服務の宣誓に関する政令1条別記様式)。
 「私は、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務すべき責務を深く自覚し、日本国憲法を遵守し、並びに法令及び上司の職務上の命令に従い、不偏不党かつ公正に職務の遂行に当たることをかたく誓います。」
 国会議員や大臣等にも、この際、同じように、就任にあたって憲法尊重擁護と国民全体への奉仕といった趣旨のことがらを内容とする宣誓義務を課すこととしてはどうであろう。



 

[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]