法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

浦部法穂の憲法時評

 

2013年のはじめに


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2013年1月7日

 明けましておめでとうございます。

 昨年末の総選挙で自公政権が復活し、安倍内閣が発足した。選挙期間中から、安倍氏は大胆な金融緩和や2%のインフレ目標でデフレ脱却を唱え、これを好感した市場では、円安・株高が進行した。年明け早々には1ドル=88円台にまで円安が進み、日経平均株価も300円近く上がって1年10ヶ月ぶりに1万600円台を回復と、なにやら浮かれ気分の年初である。景気回復で今年こそは明るい年になりそうだとの期待めいた雰囲気が振りまかれているが、さてほんとうにそうなるだろうか。足下では、すでに、円安に伴ってガソリン価格がじわじわ値上がりしている。電気料金の値上げも既定の事実になっている。このまま円安が進めば、輸入に頼っているガスも、そして食料品も、値上がりは避けられないだろう。円安は、輸出企業には業績改善の要因になるが、日常必需品の多くを輸入に頼っている日本の状況では、家計圧迫の要因になる。そういう円安に伴う物価上昇に加えて2%のインフレ目標達成のための政策で、家計はさらに圧迫されることになろう。家計収入がそれに見合うだけ増加しなければ、円安もデフレ脱却も、私たちの生活をいっそう苦しくするだけになる。

 実際、過去、日本経済は2002年2月から2007年10月までの69ヶ月間好景気が続いたと言われ、「いざなぎ景気」(1965年11月から1970年7月までの57ヶ月間)を抜いて戦後最長の好景気だともてはやされたが(「いざなみ景気」などとも呼ばれるようである)、この間、しかし、勤労者の賃金は下がり続けた。景気がよくても給料は上がらないどころか毎年毎年下がり続けたのである。いま、安倍首相が唱える経済政策は「アベノミクス」などともちあげられているが、その「アベノミクス」が「いざなみ景気」とやらの二の舞にならないという保証はどこにもない。非正規雇用が全勤労者の3分の1以上に及ぶほどに常態化し賃金上昇の条件は崩れており、また今年の10月からは年金の1%削減も決まっている。家計収入が増加するような条件は見当たらないのである。そのうえに来年4月からは消費税率が8%に引き上げられる。「アベノミクス」のもとで景気回復があったとしても、企業、それも大企業だけが儲かる景気回復に終わる可能性は大きいといえるのではないか。

 問題は、この夏の参議院選挙である。報道によれば、安倍首相は参議院選までは経済対策に専念するということである。これには大きな意味がある。まず、消費税率の引き上げについては、景気動向を見据えて最終決定するということになっているが、参議院選までは選挙の不利にならないよう上げるか上げないかは曖昧にしておいて、各種経済指標の名目的な数字だけでもとにかく上げることに全力を傾ける。その数字を選挙の武器にして勝利を勝ち取り、そしてその数字を根拠に消費税率引き上げ決定をする(おそらく秋口くらいに)。さらに、より重要で見過ごせないのは、昨年末の総選挙で、安倍自民党は、集団的自衛権の「解禁」、憲法改正で「国防軍」設置、教科書検定基準の「近隣諸国条項」見直し、等々のきわめて右翼的な政策を訴えていたが、参議院選まではこれらは「封印」しもっぱら経済対策に力を注ぐ、というその戦略である。これらの右翼的な政策が必ずしも国民多数の支持を得られないだろうことは、安倍自民党もたぶん承知しているのだと思う。だから、選挙前にこれらの政策を強行して不評を買うことは避け、経済対策で実績を上げることで人気を獲得して参議院選の勝利につなげよう、というわけである。この夏の参議院選挙に勝てば、そのあと3年間は国政選挙なしで済ませられるから、その3年の間に、安倍氏の悲願ともいうべきこれらの右翼的政策を実行しよう、というのが安倍政権の目下の戦略であろう。

 こうしてみると、今年は日本の今後を決する、まさに決定的な年になるような気がする。その「天下分け目」となるのが夏の参議院選挙である。この参議院選挙に向けては、橋下大阪市長などは、自公政権に代わる受け皿作りが重要だというので、「維新」や「みんなの党」そして民主党の一部が結集して力を合わせるべきだと言い、「未来の党」と一緒になったり分裂したりで未来のなくなった小沢一郎氏なども同調する構えをみせているようだが、そういう形での「政権交代」はもはや重要な政治課題ではない。だから、かりに、安倍自民党の戦略が思惑どおりに行かず安倍政権への支持が低下することになっても、だからといって参議院選で橋下氏がいうような「維新」連合を勝たせるのは、決して賢明な選択ではない。むしろ状況をいっそう悪くするだけだと思う。この2013年に私たちに突きつけられている選択は、自公政権かそれに代わる政権かの「政権選択」ではない。前回も書いたことだが、とにかく曲がりなりにも維持してきた「戦争をしない国」というありようを今後も続けるのか、それとも「戦争する国」へと転換するのか、という選択である。どういう政権枠組みがいいのかという「政治家(屋)」の側から提示される選択肢に乗せられるのではなく、私たちの側から「戦争する国」に転換するのかそうでないのかという選択肢を「政治家(屋)」のほうにつきつけ、その点での態度を明確にするよう迫ることが、まず必要なことだと思う。「護憲」か「改憲」かの選択だとも言えるが、悲しいかな「護憲」という言葉がもはや政治の世界では「死語」化している状況下では、こういう形での選択肢の提示は人々の心に届きにくいのではないかと思う。だから、「護憲」勢力というよりも、「戦争をしない国」でありたいと思う人々を結集しその政治勢力を強めていくことが重要だと思う。政権はさしあたり追求すべき課題ではない。どういう政治勢力が政権を取ろうとも、その政権が決して無視できない程度の力を、「戦争をしない国」であり続けようとする政治勢力に与えること、それが今年の一番の課題である。



 

[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]