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浦部法穂の憲法時評

 

「破れかぶれ解散」のあとは・・・


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2012年11月22日

 いま選挙をやったら勝てないだろうと承知しながらの野田首相の「破れかぶれ解散」で、12月16日に衆議院議員総選挙が行われることとなった。この選挙は、結果次第では「日本転落」への第一歩となりかねない、ある意味歴史的な選挙になるような気がする。民主党政権は、とくに野田内閣になってから、かつての自民党政権とほとんど変わらない政策を断行してきた。消費税は上げないという3年前の国民に対する約束は反故にし、「脱原発」と言った舌の根も乾かないうちに原発再稼働を認め、普天間問題やオスプレイや米兵の犯罪や、沖縄の人々がこれだけひどい目に遭わされているのにアメリカにはいっさい逆らえずで、「政権交代」の結果は、なんのことはない民主党が「自民党的」になっただけだった。こうした民主党の「右傾化」に対し、野党自民党はよりいっそう「右より」にシフトすることによってその存在理由を示そうとしている。安倍氏の「再登板」、そして石破幹事長の起用は、「保守」というにとどまらない「右翼」自民党の登場を意味しているといえよう。そこへ、石原=橋下の野合で「極右」化必至の「維新の会」結成である。

 この原稿を書いている時点では、まだ総選挙は公示前である。公示前にもかかわらず、マスコミは「世論調査」と称して、自民党が勝ちそうだとか、「維新の会」と民主党は支持率が拮抗しているとか、選挙結果に影響を与えかねない「予想」を垂れ流している。今度の選挙は自民・民主・維新が主要なプレーヤーになるというのが既定の事実のような報じ方である。だとしたら、今度の選挙の「土俵」は恐ろしく「右寄り」のところに設置されるということになる。かつての自民党が立っていたところ(いまは民主党が立っているところ)から「右」側にしか、われわれの選択肢はない、ということになるのだから。大企業優先・弱者置き去り・対米従属の「日本的保守」か、「戦後的価値」の全面精算をうたう「右翼」か、「強く、したたかな日本をつくる」という言葉の裏に軍事国家化をも排除しない意思をみせている「極右」か、その選択しかないというのだろうか。いったい、それでいいのだろうか。

 いま現在のマスコミ的予想のように、自民党が勝ち安倍氏が首相になったとしよう。その際、いずれにしても連立政権ということになるだろうが、連立の枠組みとしては、@自民・公明、A自民・公明・民主、B自民・維新(これに公明が加わるかどうか)、といったような組み合わせがありうるように思う。民・自・公の「既成政党」が、数に変動はあっても一応これまでどおりの優位性を保つことができれば@、自・公がそれなりに勝ち民主が100議席を相当下回るくらい大負けすればA、維新が公明を大幅に上回る議席を得たならばB、というのがいまのところの私の「見立て」であるが、選挙のためなら言うことをころころ変えて自分の言葉にまったく責任を持たず、あるいは、あっちがだめならこっちにつくで、「節操」などいっさい持ち合わせない魑魅魍魎の世界のことだから、実際のところはなってみないとわからない。しかし、どういう組み合わせになったとしても、いまの予想では、安倍自民党主導の政権ということになるだろうから、そうであれば、選挙後の日本政治は非常に「タカ派」色の強いものになるだろう。とくにBのケースでは、歯止めのきかない暴走さえもありうると思う。

 当面の問題としては、まず、「領土」を守るとして強硬な措置を打ち出し、尖閣諸島をめぐる中国との対立が、さらに厳しくなるであろう。教科書検定基準の見直しでいわゆる「近隣諸国条項」を削除して、中国のみならず韓国その他アジア諸国の猛反発を招くであろう。そして、集団的自衛権の行使を認めるように「政府の憲法解釈を変更」することで、アジア諸国に強い警戒心を抱かせ、とくに中国との関係は抜き差しならぬ状況にまで悪化するであろう。とどめに、首相の靖国神社参拝である。こうして、日本は中国や韓国などとの対立をどんどん深め、「断交」に近いところまで関係を悪化させることになるだろう。安倍政権になって、いま安倍自民党の言っていることがそのまま実行されれば、こういう筋書きになることは十分予想される。それでも「日米同盟に揺るぎはないから大丈夫」と言う人がいるかもしれないが、東アジアに「一触即発」の対立関係をもたらすまでに右傾化する日本を、アメリカがどこまで「同盟国」として支えるであろうか。アメリカにも見放される可能性は、決してゼロではない。

 「中国や韓国に、なぜそんなに気を遣う必要があるのだ」というのは、右翼の常套句であり、日本経済の不振で自信を失った一般の日本国民にもある程度入り込みやすいものになっているのかもしれない。が、かりに歴史的な問題はさておくにしても、中国や韓国と友好的な関係を保たずには日本は生きていけない、というのは厳然たる事実である。現に、尖閣諸島をめぐる中国とのゴタゴタで、日本経済は大きな打撃を受けている。この対立がさらに深まって「断交」に近いところまで行ったら、日本経済はもはや成り立たないだろう。経済壊滅で国民生活は困窮を極め、アジアの中で完全に孤立し、最後はアメリカにも見放される。こういう「日本転落」の筋書きが、この選挙のあとに待っているような気がしてならないのである。12月16日には、そんなことにならないような選択をしようではないか。

 といっても選択肢が「右」側にしかないという状況の中でどんな選択をすればいいのだ、と言われれば、正直なところ返す言葉がない。「中道」でも「リベラル」でも「革新」でも、看板はどうでもいい。「保守」であってもまっとうな保守ならそれでもいい。右へ右へと傾いていく日本政治をまっすぐに立て直し「日本転落」をなんとしても避ける、という方向性において一致できる政治勢力の大同団結が、いまは求められているのではないかと思う。これらの勢力が、それぞれの「看板」にこだわってその維持にだけ腐心しているなら、それも「日本転落」の立派な共犯だといわざるをえない。ともあれ、「選択肢のない選択」を強いられるのはつらいことだが、ムードや雰囲気や威勢のよさに惑わされることなく、有権者一人ひとりが相対的にマシな選択をすることで、なんとか「転落」を免れればと、祈る気持ちである。



 

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