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浦部法穂の憲法時評

 

財政再建・増税?


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2011年1月20日

 通常国会の開会を前に、菅改造内閣が発足した。目玉は、経済財政担当大臣への与謝野馨氏の「一本釣り」起用である。与謝野氏は、財政再建・増税派として知られる。だから、菅政権は財政再建・増税路線を鮮明にしたといえる。そして、増税はすなわち消費税率の引き上げということになろう。たしかに、来年度政府予算案を見ても、一般会計の総額92兆円のうち44兆円が国債発行による借金でまかなわれ、税収は41兆円弱と、昨年に続き借金が税収を上回るという、異常な財政状況である。そして、国の長期債務は今年度末には650兆円に達し、地方の借金と合わせると850兆円ほどになり、来年度はさらにこれに30兆円程度上積みされることになる。国と地方を合わせて850兆円という借金は、国民1人あたり670万円の借金ということになる。また、それは、GDPの約170%にあたり、先進国中最悪の数字である。

 こういう数字が並ぶと、まさに日本の財政は破綻寸前の危機のようにみえる。国民1人あたり670万円? そんな借金、返せるわけがないだろう(4人家族なら2680万円もの借金ということになる!)。GDPの2倍近くにまで膨らんだ借金を、いったいどうやって返済するというのか。そんな状況なら、消費税の引き上げもやむをえないではないか。……というような風潮が、いまこの国の社会を支配しようとしている。実際、マスコミも、財政危機を叫び、消費税引き上げやむなし、という論調に染め上げられつつある。それにつられて、国民のあいだにも、消費税の引き上げを容認する意見がだんだん増えているようである。

 しかし、国の借金850兆円(地方分も含む=以下同じ)とか国民1人あたり670万円とかという数字は、一面的な数字である。たしかに、国は850兆円の借金を抱えているが、他方で550兆円もの金融資産をもっている(社会保障基金、内外投融資、外国債券など)。したがって、負債から資産を差し引いた純債務は300兆円ほどであり、GDPの6割程度で、それほど深刻な数字ではない、ともいえる。ただし、政府の保有する金融資産がすべて借金の返済に回せるものであるわけではないので、純債務で見れば大したことはないと楽観しすぎるのも問題であるが、そうであるにせよ、850兆円という数字は、実態よりも大きすぎるといえよう。この数字が一人歩きのごとく流布されていることには、なにやら、消費増税への世論操作という匂いを感じる。

 また、国民1人あたり670万円、という数字は、額の大きさを実感させるに十分なものであるが、これも、そういう「ことさらな」意図を感じる。そもそも、国が850兆円の借金をしているというが、誰から借りているのか、である。日本の場合には、国債等の95%は日本国内で消化されている。ということは、850兆円のうちの95%は国民からの借金だということになる。つまり、国が抱えている借金の大部分は、返済期日になれば(利子を付けて)国民に返済されるのである。単純にいえば、国民1人あたり670万円の借金があるが、同時に国民は国に対し1人あたり636.5万円(+利子)の債権をもっている、ということである。だから、国民1人あたりの実際の借金は33.5万円以下という計算になるはずである(現実には、国民といっても、国債等を買っているのは郵貯や市中銀行などの金融機関が中心であるが、その資金は私たちがそれら金融機関に預けている預貯金である)。

 私は、日本の財政はこのままでいい、ということを言おうとしているのではない。要は、数字はどうとでも操作できるのであり、だから、850兆円とか670万円という数字に踊らされて、消費税引き上げやむなし、という気分になってしまうのは、ちょっと待ったほうがいい、ということである。借金頼みの財政は、決して健全とはいえないから、借金を減らす道筋を立てることが急務であることに間違いはない。借金を減らすには、支出を減らすか収入(税収)を増やすかであるが、こんにち、国の一般会計歳出の31%が社会保障費であり(2011年度政府予算案)、これは、いまの社会保障の水準のままでも高齢化の進展とともに増え続けていくことは疑いないから、国の支出を減らすことは社会保障の水準の大幅な低下を意味することとなる。それを避けるためには税収を増やすしかない。そういう意味で、税収増を図る政策が必要となる。

 しかし、それは、消費税率の引き上げに直結するわけではない。日本では、かつて、1980年頃には、所得税の最高税率は70%、これに住民税18%が加わり、高額所得者に対する最高税率は88%であった。それが徐々に引き下げられ、消費税導入の1989年には65%(所得税50%、住民税15%)になり、1999年には50%(所得税37%、住民税13%。現在は所得税40%、住民税10%)にまで下がっている。また、法人税も1980年代以後一貫して引き下げられてきた。つまり、金持ちや企業の税負担を減らし続けてきたのである。いまもまた、消費税率引き上げと同時に法人税率の引き下げがいわれている。要するに、金持ちや企業の負担を減らした分を消費税でまかなうということであり、こういうことをやっていて税収が伸びるわけがない。消費税増税の前に、所得税や法人税の適正な水準をきちんと議論する必要があると思う。また、税収を増やすためには増税が唯一の政策ではない。個人の所得や企業の利益を増大させれば所得税や法人税の税収は自然と増える。消費税収も、率を上げなくても増えるであろう。そういう政策も選択肢に入るということは、心にとめておいていいだろう。

 

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