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浦部法穂の憲法時評

 

TPP


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2010年11月18日

 このところ、TPPという、あまり聞き慣れない言葉がマスコミ等を賑わしている。TPPすなわち「環太平洋パートナーシップ」(Trans-Pacific Partnership)協定(「環太平洋戦略的経済連携協定」)のことである。菅首相が先月の所信表明演説でこれへの参加に言及したことで議論が巻き起こり、11月13日〜14日に横浜で行われたAPEC首脳会議では、これが主要議題の一つとなった。APEC首脳宣言として採択された「横浜ビジョン」は、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構築を目指しTPPなど域内で進行中の協力を強化する方針を明記した。

 TPPは、もともと、シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4か国が2006年に結んだ自由貿易協定で、APECのモデル協定という戦略的意図をもって作られ、APEC諸国の加盟を企図したものだとされる。これにアメリカ、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアが参加を表明し、この9か国で現在交渉が進められている。その大きな特徴は、すべての品目について例外なく関税を撤廃する(締結時に貿易総額の90%程度の関税を即時撤廃、残り10%程度については10年以内に段階的に撤廃)という点にある。つまり、除外品目を認めない100%関税撤廃を原則とするものであり、これまで日本がASEANなどと締結してきた経済連携協定(EPA)などと違って、TPPでは、特定品目を例外とする交渉がきわめて難しいと考えられている。要するに、農作物についても関税撤廃が原則となるわけで、これでは日本農業は壊滅するとして、農業関係者などを中心に猛反対の声があがっているのである。

 アメリカがTPPに飛びついたのは、輸出倍増で自国経済の立て直しを図ろうとするうえで、これが有力な市場確保策になる、との思惑からであり、来年11月にホノルルで開かれるAPECまでには交渉をまとめたいとしている。こうしたなかで、輸出に頼る日本の産業界としては、TPPに参加しないならば参加国との輸出競争に負けるのは必至となるからTPP参加は絶対必要だ、ということになる。もしTPPに参加できなければ日本経済は競争力を失い世界から完全に取り残されてしまう、というわけである。菅首相がTPP参加を言い出したのは、こうした産業界の強い要請を受けてのことであるのは間違いないが、そこには、アメリカが加わるというんなら日本も入れてもらわなければ、という、相も変わらぬ対米追随の思考が強く働いているように思う。

 もちろん、貿易自由化には一定のメリットはあるし、世界経済のなかで自由化の趨勢は止められないであろう。問題は、農作物である。日本は、これまで、個別の自由化協定や交渉において、コメなどを中心に農作物については除外・例外扱いとすることで国内農業を保護するという政策をとってきた。TPPは、そういう例外はいっさい認めないことを原則とするから、もしTPPに参加するということになったら、コメなどについても関税を撤廃しなければならないことになる可能性が高い。これまでも、アメリカは日本に農作物の輸入自由化や輸入牛肉の安全基準の緩和などを求めてきたが、そうした背景を考えると、日本のTPP参加は、実質的には、農畜産物を日本にも売り込みたいアメリカ(の穀物商社や大手食肉メーカー)の利益に仕える、という意味合いを色濃くもっているといえる。菅政権も、これまでの自民党政権と同じく、対米従属外交の道をひた走っているといわざるをえない。

 ことは、私たちの食の安全にかかわる。アメリカから安いコメや肉がどっと入ってくるということになったら、日本の農業は、とうてい太刀打ちできず、衰退の一途をたどることにならざるをえない、というので、農業関係者がTPP反対の声をあげているが、それは、農業従事者の生活が成り立たなくなるから、というだけの問題ではない。どんな農薬や肥料を使って作ったのかもわからない農作物やBSE検査も経ていない牛肉や、等々を、私たちは食べなければならないことになるのである。消費者が賢い選択をして、安全な国内産のコメや野菜や肉を食べるようにすればよい、という考え方もありうるが、たしかにそれは重要であるにしても、限界がある(外食や加工食品の場合には、材料一つ一つのすべてについて原産地表示を義務づけるのでないかぎり、消費者にはわからない)。さらに、日本が将来にわたって世界的な食糧不足と無縁でいられるはずはないから、食料の大部分を輸入に頼るような形にしてしまえば、将来の世代の生存を危険にさらすことになる。そういう長期的な観点からも、国内農業の振興は不可欠である。

 だからTPPに反対、がここでの結論ではない。高い関税を課すことで国内農業を保護するというやり方は、もはや有効性を失っているのではないかと思われるからである。少なくとも、「振興」にはつながっていないといえるのではなかろうか。「農業をやってみたい」という人が増えるような、産業としての農業の魅力をいかにして高めるか、そういう政策の追求がなされるべきだと思う。私には、その具体策を語る能力はないので、こういう抽象的なことしか言えないが、しかし、国内農業の振興策を欠いたままでの自由化は現在および将来の国民の安全を脅かす、ということは確実に言えると思う。TPP参加の是非は、農業(食糧)をどうするかということとセットで議論されるべきである。


 

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