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浦部法穂の憲法時評

 

地方議会と首長


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2010年9月23日

 鹿児島県阿久根市の竹原市長に対するリコール署名が有権者の過半数を超える署名数で提出された(9月15日)。12月にも市長解職の賛否を問う住民投票が行われる見通しという。竹原市長は、市議会が市長の政策に何でも反対するからというので、長期間議会を招集せず専決処分を繰り返してきた。一方、名古屋市では、河村市長の音頭取りで市議会リコールの署名集めが始まり、9月13日現在、署名集め開始から18日間で15万人の署名を集めたとのことである。こちらも、市議会が市長の政策を受け入れないということで、議会の解散請求運動を市長みずからが先頭に立って行おうというのである。もう一つ、大阪では、「大阪都構想」を掲げて橋下知事が旗揚げした地域政党「大阪維新の会」が、来春の統一地方選で大阪府議会、大阪市議会、堺市議会に公認候補を多数擁立しそれぞれで過半数の議席の獲得を目指すことを発表した。これをうけて、現職の府議・市議がなだれを打って「維新の会」に入るという動きをみせている。こちらは、知事がその人気を梃に、議会を自分の思い通りになる「翼賛議会」にしてしまおうという目論見である。

 首長のいうことを聞かない議会、それを完全に無視してやりたいようにやったのが竹原市長、いうことを聞かないならば民意を問うぞ、というポーズで議会を屈服させようというのが河村市長、いうことを聞かなければ落選させるぞ、という脅しで議会を掌中に収めようというのが橋下知事、ということができる。そして、この3人の首長に共通するのが、職員数・人件費や議員数・報酬の削減等で「ムダ」をなくし減税する、などといった「大衆受け」のする政策を掲げることでみずからを「改革者」と位置づけ、それに抵抗する自治体職員や議員を自分たちの既得権益の擁護しか頭にない「住民の敵」として攻撃し、その「わかりやすい」図式によって人々の支持・人気を得ているという点である。そして、マスコミも、この図式を無批判に拡幅し、これら首長を無節操に持ち上げてきた。さすがに、竹原市長のあまりにも乱暴なやり方には批判がわきだし、リコール運動へと発展することになったのではあるが…。

 これら3首長のやり方、そしてそれ以上に、こうした首長の行動を好意的に受けとめる世論の動向は、民主主義にとってきわめて危険な兆候だと思う。首長が議会を無視したり、あるいは首長のいうことは何でも聞く議会を作り上げるというのは、首長による独裁を許すことにほかならない。たしかに、地方自治体の長は住民の直接選挙によって選ばれるものであるから、「民意」を背景にもつ。だから、首長がみずからの政策を実行することは「民意」にもとづく政治という民主主義政治の本質になんら反するものではない、ということになりそうであるが、「民意」によって選ばれた権力者が「民意」を背景に自分の思い通りに行動するならば、それは民主主義の完全な破壊にいたるということは、1930年代ドイツにおけるヒトラーの台頭を例に引くまでもなく、自明のことである。そして、権力者が「大衆受け」のする「わかりやすい敵」を作り上げ、それを集中的に攻撃することで「民意」の支持を調達する、というやり方も、権力への求心力を高める常套手段であり、それが高じれば高じるほど独裁体制に傾いていくことも、ヒトラーの例に見てとることができる。一人の権力者がやりたいようにできる体制は、たとえその権力者が民主的手続きによって選ばれた者であったとしても、もはや民主主義とは無縁のものになるのである。

 実際のところ、地方自治体職員の仕事ぶりに不満を感じることも多々あるかもしれないし、地方議会の議員にいたっては、本当に住民のために働いている人間がどれだけいるか疑問に思うということもあろう。私自身も、そういう思いがないわけではない。だから職員の給与を下げろ、議員の数も報酬ももっと減らせ、で本当にいいのか、そしてとくに、それを首長の手腕に託してやってもらおうということでいいのか。私たちが考えなければならないのは、そこだと思う。

 近年、いろいろな場面で組織のトップのリーダーシップということが強調される。政治の場でも、首相や自治体首長のリーダーシップの必要がいわれ、企業においても経営トップのリーダーシップが強調され、大学でも学長のリーダーシップということが語られる。そこでいわれるリーダーシップは、往々にして、「抵抗勢力」を押さえ込んで思うとおりにやれ、という意味合いを強くもつ。私は、こうしたリーダーシップの強調という風潮に、日本人の権力依存体質を感じる。つまり、自分たちでなんとかしようというのでなく、上でなんとかしてくれ、という意識である。先の「小泉人気」や、橋下知事・河村市長などの人気の背後に、どうもこういう意識があるのではないかと思うのである。それこそが民主主義にとっての大敵であろう。阿久根市の竹原市長に対するリコール運動は、日本の民主主義がまだ死んではいないことを示したといえなくもないが、あそこまでのやりたい放題があっちでもこっちでも、ということになってからでは遅い。


 

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