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浦部法穂の憲法時評

 

消費税


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2010年7月1日

 参議院選挙が始まった。菅首相が消費税率引き上げに前向きな姿勢を示し、消費税問題がこの選挙の重要な争点の一つとして浮上した。増税論は選挙に不利というのが常識だが、はたして今回はどうなるであろうか。ただ、マスコミの論調は、「消費税増税やむなし」という方向に流れており、一つの方向がつくられると皆がそっちに向かってワァーと流れていく傾向の強いこの国では、今回は、「消費税増税反対」の声もかき消されがちのようにみえる。

 もっとも、国と地方をあわせた債務残高(借金)が850兆円超え(対GDP比180%)という先進国でも最悪水準の財政赤字、一般会計予算の半分以上が借金頼みという異常な国家財政、そして少子高齢化によって増え続ける社会保障給付を考えれば、「増税反対」を唱えるだけでは済まないことは、たしかである。折しも、カナダのトロントで行われていたG20首脳会議は、先進国が2013年までに財政赤字を半減させるという目標を盛り込んだ宣言をまとめた。日本は、借金のほとんどが国内でまかなわれている(国内の貯蓄資金で国債が消化されている)ことから、この目標の例外扱いとされたが、このまま借金を膨らませ続けていいという話になるわけではない。債務残高はすでに国内でまかないきれる限界に近づいてきており、国家財政の破綻は国民生活の崩壊にも直結するから、私たちの生活を守るという観点からも、財政再建が必要であることは否定できない。

 そうなると、「増税やむなし」ということになるが、消費税は、所得税や法人税に比べると、景気の動向に比較的左右されにくい税だといわれ、これを増税すれば安定的な税収を確保できることになる。所得税や法人税は、景気が悪くなって個人の所得や企業の利益が減ったりなくなったりすれば、税収は大きく落ち込むが、消費税は、景気が悪くなっても一定の消費は必ずあるから、税収の落ち込みは所得税や法人税ほど大きくならないからである。つまり、税収確保という面からみると、消費税を上げるのがいちばん確実な方法だということになる。そして、国の支出のなかで大きな割合を占める社会保障関係費(今年度一般会計予算の29%)は、景気が悪くなったからといって大きく切り下げることはできない性格のものである。そういうところから、社会保障のために消費税率の引き上げが必要だ、という議論も出てくることとなる。

 しかし、消費税については、いわゆる「逆進性」という問題が指摘されている。つまり、低所得者ほど消費税の所得に対する負担割合が大きくなる、という問題である。第一生命経済研究所のレポート(「消費税率引き上げの影響」2010.4.2)によれば、現行5%の消費税で、年収1500万円以上の世帯では年収に占める消費税負担額の割合は2.2%であるのに対し、年収250万円以下の世帯では4.2%と、ほぼ2倍になっているとされる。また、大企業に部品や原材料などを納めている中小企業は、大企業の締め付けによって消費税を価格転嫁できず、そのため消費税が中小企業の経営を圧迫する1つの大きな要因になっていることが、しばしば指摘される。このように、消費税は、所得の低い人や中小企業に過重な負担を強いるという側面があることは、否定できないのである。さらに、消費税率の引き上げは、消費の減少や企業売り上げの減少によって景気の悪化を招き、それが税収の減少につながって、結局財政赤字の解消には効果が小さいのではないか、ともいわれる(前出の第一生命経済研究所のレポート)。

 こう考えてくると、財政が大変だからとか、社会保障のために、ということで、単純に「消費税増税やむなし」とするわけにはいかない。かといって、なにがなんでも「増税反対」で済むわけではない。もちろん、増税の前にムダをとことん削るべきだというのは、正論である。しかし、なにがムダかは、私たちが国(地方自治体も含めて)にどこまでのことをやらせたいと考えるかによる。その全体像なしに「ムダを削れ」というだけでは、結局、削りやすいところから削るということになってしまい、少数者や弱者にとって必要な部分がどんどん削られる結果になりかねない。

 消費税率引き上げの議論は、上げるべきか否かや、税率を何%にするか、というレベルでの議論にとどまっていたなら、国の財政にも私たちの生活にも、何もよい結果はもたらさないと思う。国のなすべき仕事の全体像を描き、そのためにどれくらいの財政規模が必要であり、それをどういう形で国民が負担するのが適当か、といったトータルな枠組みを提示したうえで、消費税率の引き上げが必要なら必要として提案するのが、政治の仕事であろう。私たちは、「消費税増税やむなし」のマスコミ的世論にのせられることなく、かといって「なにがなんでも反対」と言って終わらせるのでなく、まずは、トータルな枠組みの提示を政治に対して要求していく必要があると思う。それがあってはじめて、是非の判断が可能になるからである。


 

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