この本は、風刺漫画家のぼうごなつこさんが、自身の勉強もかねてTwitterで連載してきた日本国憲法解説の漫画を、憲法に携わってきた方々のコラムとともに書籍化したものです。
憲法解説は逐条解説となっていて、各条文の趣旨や内容のポイントが4コマ漫画で示された後に、現行日本国憲法の条文と解説、大日本帝国憲法(明治憲法)と自民党改正草案の条文が掲載されています。解説は風刺漫画家ならではの視点とわかりやすさで、簡潔にまとめられています。
たとえば、9条1項の解説は、「『国防のための正しい戦争ならしてもいい』というルールを定めるくらいなら、そもそも『軍備はダメ、戦争は永久に放棄』と決めておけば、戦争すべきかどうかを悩む必要はありません。これほど戦争に巻き込まれないための合理的な条文はありません。引くに引けなかったあの戦争の、数少ない教訓です。」となっています。
Twitterで発信されていたこともあって文章は短く、判例や学説の解説は一切ありません。憲法上の様々な問題についても疑問を呈する程度です。また、条文の比較は一目瞭然ですが、自民党改正草案の内容がどうなっているのか、改憲した場合どうなるのかなどは、まず漫画と条文と解説でざっくりと現行憲法の趣旨を理解したうえで、明治憲法を参考にしつつ、読者自身が考える必要があります。緊急事態条項の危険性については、おまけで漫画つきで取り上げられています。
解説だけでなく、各章についているコラムも非常に読みやすいものばかりです。それぞれ1500字程度にまとめられた文章でありながら、内容は深く、多くの学びや気づきがあります。
いま、憲法改正をめぐって、自民党はもとより、公明党、日本維新の会、国民民主党も憲法審査会の議論を加速させようとしています。憲法のあり方や、これからどのような国を目指すのかについて大いに議論がなされることは重要なことですが、議論の前提として日本国憲法の基本的な考え方やその歴史を理解しておくことは必須です。多くの方々に活用していただきたい1冊です。
収載コラム
憲法の歴史から未来をつくり出す 伊藤真(弁護士 伊藤塾塾長)
生まれながらにして国を背負う人 松本肇(教育評論家)
武力で平和は作れないー憲法九条の効用ー 福島みずほ(社民党党首 参議院議員)
児童憲章と憲法「無戸籍の日本人」を通じて思うこと 井戸まさえ(元衆議院議員)
幸せになる権利があっても、病気で不幸になる人がいる 宮子あずさ(看護師)
人間存在を肯定するパワーの源十三条と二五条 池田幸代(駒ヶ根市議会議員 社会福祉士)
自分らしく自由に生きるために役に立つ憲法の規定とは? 伊藤和子(弁護士 ヒューマンライツ・ナウ事務局長)
人はみな平等と宣言した憲法を使おう 福島みずほ
映画と表現の自由は? 望月衣塑子(東京新聞記者)
満二〇歳までの教育は全て無償に 松本肇
憲法二四条 結婚の自由がすべての人に認められるように 伊藤和子
生存権を脅かす放射能汚染 三田貴(京都産業大学教授 政治学)
日本国憲法二五条で守られている私たちの暮らし 藤田孝典(特定非営利活動法人ほっとプラス理事 社会福祉士)
入管収容の問題は三六条「拷問・残虐刑の禁止」違反である 織田朝日(外国人支援団体「編む夢企画」主宰)
衆議院の解散は違憲かもしれない 松本肇
法律を作るのが内閣になる日 松本肇
「統治行為論」という病 渡辺治(まちづくり建築家)
憲法は国の財政混乱を予見? 松本肇
地方自治から考える国の政治 山内和彦(元川崎市議会議員 ジャーナリスト)
憲法を護るということ 山口あずさ(安保法制違憲訴訟の会)
自民党による憲法改正は近代国家の否定 中野昌宏(青山学院大学教授 社会思想史)
【書籍情報】2021年11月、オクムラ書店。著者は、ぼうごなつこ(漫画家)ほか。定価は1,760円(本体価格1,600円)。
【関連HP:今週の一言・書籍・文献】
書籍『井上ひさしの憲法指南』
井上ひさしさん(作家)
書籍『憲法を楽しむ』
憲法を楽しむ研究会 編
書籍『女子高生が憲法学者小林節に聞いてみた。「憲法ってナニ!?」』
小林節さん(慶應義塾大学名誉教授)