自由法曹団とは、「あらゆる悪法とたたかい、人民の権利が侵害される場合には、その信条・政派の如何にかかわらず、ひろく人民と団結して権利擁護のためにたたかう」弁護士の団体です(自由法曹団規約2条)。1921年、造船所のデモに警官隊が襲いかかり、労働者1人が刺し殺される事件が発生し、この人権蹂躙に憤慨した弁護士らの呼びかけに賛同した60~70名の弁護士らにより結成されました。今回ご紹介する『自由法曹団百年史』と『自由法曹団物語』は、創立100周年を記念して刊行されたものです。
『自由法曹団百年史』では、結成から現在に至るまでの、平和、民主主義、人々の生活、権利を守ろうとした気骨ある団員たちと市民の闘いの歴史が記録されています。誰がどのような発言をし、どのように裁判・運動を展開していったのかが詳細に記述され、闘いの全体像をリアルに浮かび上がらせています。
一文一文に記された事実は重く、特に戦前の、治安維持法による弾圧事件の公判闘争やその後の弁護士弾圧、戦後の再出発の経緯などは、凄まじいものがあります。また、戦後最大の冤罪事件であり、現在も各地で展開されている大衆的裁判闘争(被告らと弁護団員が、多くの市民を巻き込んで権利擁護の判決を勝ち取る裁判闘争)のルーツある「松川事件」の真相と経緯が詳細に記されており、多くの学びがあります。1960年以降には、安保闘争や日本国憲法の人権条項に息を吹き込んださまざまな大衆的裁判闘争が、整理されて記されています。1960年以降もさまざまな形での弾圧がなされてきたことがわかります。
自由法曹団の活動の歴史は、憲法で保障されている権利擁護の闘いの歴史です。権力による理不尽極まりない弾圧を受けながらも、不正義とたたかいつづける不屈の信念に感動するとともに、100年の活動を振り返ることで、憲法で保障されている各権利の意義や重みを痛感させられます。
『自由法曹団物語 人間の尊厳をかけてたたかう30話』は、創立80周年を記念して刊行された『自由法曹団物語—世紀を超えて(上)(下)』の続編となっており、2000年以降の事件活動や社会運動から30のドキュメンタリーが収められています。事件ごとに完結していますので、関心のある所から読み進めることもできます。
熱い法曹たちの信念と、共感する人々の想いが集まり大きな力となって社会を動かし、歴史を刻み、現在があることを実感させられる書です。
多くの方々に、特に法曹を目指している人や、これから進路を考える学生の方々にも是非読んでいただきたいと思います。
『自由法曹団百年史』
目次
発刊にあたって
第1章 戦前の団創立から敗戦の時代
――治安維持法と闘った団員の群像と戦後の再出発
第2章 日本国憲法誕生と占領下の時代
――占領下での弾圧に抗した大衆的裁判闘争
第3章 60年安保闘争と自由法曹団――人々とともに
第4章 60年代以降の諸闘争の前進と反動が激突した時代
――大衆的裁判闘争に学び、これを広げ、
日本国憲法の人権条項に息を吹き込んだ団の闘い
1 刑事弾圧との闘い
2 働く者の自由と尊厳、そして団結と連帯を求めて
3 公害・薬害事件と被害救済の闘い
4 部落解放同盟の「暴力糾弾」と利権あさり・行政の私物化との闘い
第5章 ジェンダー平等――差別の是正と権利闘争
〈コラム〉自由法曹団の国際的活動
第6章 90年代以降の規制緩和・国家改造と権利闘争
1 政治改革・小選挙区制との闘い
2 新自由主義・規制緩和との闘い
3 社会保障削減と反貧困運動・集団裁判の闘い
4 平和・憲法・基地をめぐる30年
5 子どもの権利擁護と教育をめぐる闘い
6 治安警察、刑事司法改革、再審をめぐる闘い
終章 連帯・共同・未来へのバトン
――コロナ危機が浮かび上がらせた社会の歪みと克服の道すじ
あとがき
資料等
執筆協力者一覧
『自由法曹団物語』
目次
はしがき
第1部 憲法と平和
1 9.11とアフガン戦争・イラク戦争NO
――殺さない、殺されない世界を
2 自衛隊イラク派兵差止訴訟
――名古屋高裁違憲判決
3 辺野古をはじめとする沖縄の闘い
4 広島憲法ミュージカル運動
5 自衛官の人権弁護団・北海道
――闇の世界に人権の光を 兵士の人権を守ることは
軍隊を誤らせないこと
第2部 権力による人権侵害と対決して
6 猿払事件最高裁判決の壁に挑む
――国家公務員の政治活動の自由を守る闘い
7 えん罪根絶の闘いをつなぐ
――再審布川事件の闘い
8 この国のダンスカルチャーを守るために
――風営法のダンス規制に憲法裁判で挑む
9 公安警察による市民監視・共謀罪との闘い
――大垣警察市民監視事件
10 不断の努力による人権の保持
――九条俳句不掲載事件
11 中国人性暴力被害者と共に
――「慰安婦」の尊厳の回復を求め加害の事実を問う
12 教育現場での「日の丸・君が代」強制に抗して
13 かがやけ性教育!
――七生養護「ここから」裁判の軌跡と成果
第3部 労働者のいのちと権利をまもって
14 そして、彼らは立ち上がった
――「いすゞ」による1,400人の非正規切りと闘う
15 政治主導による「大量整理解雇」の理不尽と闘った公務労働者たち
――社会保険庁分限免職事件
16 「夫の過労死の敵討ち」から「過労死の防止」へ
――妻たちの闘い
17 アスベスト訴訟の闘い
――泉南国賠訴訟から建設アスベスト訴訟へ
第4部 市民のいのちと人間の尊厳をまもって
18 大衆の深部の力を信じて
――大阪維新との闘い
19 銚子市県営住宅追い出し母子心中事件
――居住の貧困と生活保護行政の実態調査活動
20 「被爆者は人類の宝」の言葉をかみしめながら
――原爆症認定訴訟
21 東日本大震災からの復興
22 福島第一原発事故の責任追及と被害救済に立ち上がった人々
23 原発ゼロへの闘い
――原発なくそう!九州玄海訴訟
24 逆転裁判・B型肝炎訴訟
――最高裁判決まで
25 宝の海・有明海の再生をめざして
――よみがえれ!有明訴訟
26 えひめ丸事件
――日米のピープルズロイヤーが共同して闘った
第5部 立ち上がる市民と法律家の群像
27 憲法をより”広い”人々へ
――あすわかの誕生
28 司法修習生の給費制維持・復活運動
――ビギナーズ・ネットで繋がった若き団員たち
29 ヘイト・スピーチと闘う
30 性的少数者の尊厳と平等を求めて
あとがき
<資料>『自由法曹団物語――世紀をこえて(上)(下)』<目次>
執筆協力者一覧
【書籍情報】『自由法曹団百年史』 2021年5月、日本評論社。自由法曹団編。定価は2,200円(本体価格2,000円)。『自由法曹団物語』 2021年7月、日本評論社。自由法曹団編。定価は2,530円(本体価格2,300円)
【関連HP:今週の一言・書籍・文献】
今週の一言(肩書きは掲載当時)
憲法の理念を語り広げる
坂本修さん(弁護士・自由法曹団団長)伊藤真(法学館憲法研究所所長・伊藤塾塾長)
自由権規約委員会の注目すべき勧告
――日本の人権の遅れを国際水準から検証する――
鈴木亜英さん(弁護士・国際人権活動日本委員会議長)
大阪市職員思想調査アンケート国賠訴訟の概要と展開
西 晃さん(大阪市思想調査アンケート国賠訴訟弁護団事務局長・弁護士)
書籍『国際法・憲法と集団的自衛権』
松井芳郎さん(名古屋大学名誉教授)、森英樹さん(名古屋大学名誉教授)
書籍『創意 事実と道理に即して刑事弁護六〇年余』
石川元也さん(弁護士) インタビュアー:岩田研二郎さん(弁護士)斉藤豊治さん(弁護士・法学者)