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憲法関連書籍・文献紹介
書籍『新版 死刑廃止を考える』
S.K

 2021年1月、神奈川県座間市で男女9人を殺害した罪などに問われた白石被告の死刑判決が確定しました。国民の大多数が9人も殺害した凶悪な犯罪であるから死刑もやむを得ないと考えているものと思われます。しかし、世界の70%以上の国や地域において死刑が廃止もしくは停止している中で、いわゆる先進国において死刑執行停止にも至っていない国は日本だけです。
 日本は、国際法上、法的拘束力を有する「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(自由権規約)を批准しています。この自由権規約には、その手続規定である第1議定書(個人通報制度)及び第2議定書(死刑廃止条約)が付属しており、自由権規約を批准した国は手続規定の批准に向け、政府が先導して国民に働きかける義務があります。国連人権理事会は3度の勧告で、自由権規約第6条(生命権の不可侵)及び第7条(非人道的または体面を汚す待遇)に違反していると指摘しています。ところが日本政府は、「死刑制度に関する議論については国民世論の趨勢を見ながら対応すべきものと考えている。死刑制度については、国民の多数が極めて悪質、凶悪な犯罪については死刑もやむを得ないと考えており、特別に議論する場所を設けることは現在のところ考えていない」と回答しています。
 2019年の回答では、「社会における正義の実現から」廃止できないとも回答しており、この点に関して著者は本書で人間の生命権が「社会正義」と天秤にかけられていること自体、そのことこそが「生命の不可侵」(国家による個人の生命への関与拒否)からは許されないことであると指摘しています。
 本書は、日本弁護士連合が2016年に採択した死刑廃止宣言を受け、2019年8月に発足した「死刑をなくそう市民会議」(CCACP)の、広く市民に死刑廃止を呼びかける活動の一環として出版されました。
 本書では、「日本国憲法が死刑を認めているか」についても、基礎から1948年の最高裁大法廷判決の補足意見まで、わかりやすく解説されています。そのうえで著者は、「日本国憲法に内在する最大の理念が『生命権の不可侵』とするならば、主権在民により取得すべき『生命権』を国民が享受することは、憲法前文も唱えている『人類普遍の原理』です。憲法は、国を縛る法律(立憲主義)であり、そもそも憲法13条、36条からは死刑は憲法違反なのであり、国民の生命権を侵害しているということなのです」。「日本国憲法は、その第9条において『戦争放棄』を規定しました。戦争も死刑も国家による殺人です。憲法が死刑について明確な廃止宣言をしていないとすれば、明らかに矛盾しています」(38頁)。と述べ、死刑廃止に向け死刑囚家族らの国賠訴訟の提起を提唱しています。
 本書を読んで、冤罪の温床となる自白の強制・証拠の不開示が優先される日本の刑事手続きの現状、死刑に凶悪犯罪抑止効果があるのか、国民の処罰感情で国家による殺人を本当に許容してしまってよいのかなどを、いま一度考えていただけたらと思います。

目次
 はじめに
 1 世論の支持をどう考えるか
 2 死刑は凶悪犯罪防止になるか
 3 死刑被害者感情を癒やすか
 4 誤判・冤罪は避けられない
 5 日本国憲法は死刑を認めているのか
 6 なぜ国連は死刑廃止を求めているのか
 7 死刑に代わる刑罰はあるのか
 【巻末資料】
 あとがき・謝辞

【書籍情報】2021年2月、岩波書店。著者は菊田幸一。定価は520円+税。

【関連HP・今週の一言・書籍・論文】
今週の一言
「半世紀あまりを過ぎて、なおつづく袴田裁判」
浜田寿美男さん(奈良女子大学名誉教授・立命館大学上席研究員)

書籍『国家が人を殺すとき―死刑を廃止すべき理由』

【市民の司法】
市民の司法を考える
【村井敏邦の刑事事件・裁判考(81)】大量の死刑執行

【村井敏邦の刑事事件・裁判考(62)】死刑廃止宣言
村井敏邦さん(一橋大学名誉教授)



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