2021年1月6日、アメリカで、トランプ大統領(当時)の呼びかけに応じるように、その支持者らが連邦議会議事堂に乱入・占拠する事件が発生しました。
事件を受け、日本の新聞各紙は社説で、彼らの暴挙を非難するとともに、「米政治史上における最大級の汚点」(日本経済新聞)、「民主主義の無残な凋落」(朝日新聞)、「民主主義の先導役の名が泣く」(読売新聞)などと大国アメリカの惨状を嘆いています。
その後、1月20日に行われた就任演説においてバイデン新大統領は、「民主主義」という言葉を11回口にしています。そのなかで、「私たちはまたしても、民主主義は貴重なものだと学びました。民主主義は壊れやすい」と述べつつ、この日を「民主主義の日」であり、「歴史と希望の日、再生と決意の日」だと、「民主主義が勝利」したことを誇示しています。※
ところで、「民主主義」とは何か、正確にわかりやすく答えることは案外難しいのではないでしょうか。
本書は、民主主義という言葉が誕生したとされる古代ギリシアから説き起こし、古代ローマ共和政以降は否定的な意味合い(「多数者の横暴」や「貧しい人々の欲望追求」など)で用いられたこと、19世紀に至ってトクヴィルの著した『アメリカのデモクラシー』などがきっかけとなり、再び積極的な意味を持つ言葉となり、20世紀に入って世界的な大義となった状況が考察されています。
では、現代はどのような時代なのか。
世界は民主主義にとって4つの危機に脅かされていると著者は言います。すなわち、ポピュリズムの台頭(トランプ前大統領などに代表される)、独裁的指導者の増加(プーチン大統領など)、AIなど第四次産業革命の影響(1人ひとりの人間を平等な判断主体とする前提が揺らぐ)、コロナ危機(個人の自由や権利を大きく制限するなど)の4つです。
「危機にあえぐ民主主義の立て直しは、日本を含む主要国にとって喫緊の課題である」(2021年1月8日付朝日新聞社説)と言われるように、民主主義が危機を迎えているのは、日本も同じだと言えるでしょう。
本書を閉じるにあたり、著者は次のように述べています。
民主主義は「歴史の中で大きく変質し、ひどく曖昧になってしまった部分もあ」り、「その名の下に多くの過ちがなされ」てきたが、「それでもなんとか生き延びてきた」ように、「歴史の風雪を乗り越えて発展してきた、それなりの実体がある」。「民主主義の未来は、必ずしも平坦ではないかもしれ」ないが、「少しずつ前に進んでいく、そう信じて」いると。(270-271頁)。
「民主主義」とは何か、今立ち止まって考えてみるのもいいのではないでしょうか。
※ 【全訳】 ジョー・バイデン米大統領の就任演説 「民主主義の大義を祝う」より
目次
序 民主主義の危機
第一章 民主主義の「誕生」
第二章 ヨーロッパへの「継承」
第三章 自由主義との「結合」
第四章 民主主義の「実現」
第五章 日本の民主主義
結び 民主主義の未来
【書籍情報】2020年10月、講談社現代新書。著者は宇野重規氏(東京大学社会科学研究所教授)。
定価は940円+税。
著者自身の近刊として、『民主主義を信じる』(青土社2021年2月)があります。