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憲法関連書籍・文献紹介
書籍『学校弁護士 スクールロイヤーが見た教育現場』
K.K

 文部科学省の調査によると、全国の小中高校などが2019年度に把握したいじめの認知件数は612,496件で、過去最多を更新したそうです(前年度比13%の増加)※1。
また、厚生労働省によると、2019年度の児童相談所での児童虐待相談対応件数は193,780件で、こちらも過去最多を記録しています(前年度比21%の増加)※2。

本書は、著者のスクールロイヤーとしての実体験を紹介しながら、これからの日本の教育の在り方を考えようとするものです。いじめや虐待をはじめ、不登校や体罰など現在の日本の教育が抱える様々な問題がその対象として取り上げられています。

「スクールロイヤー」とは、日本弁護士連合会によれば、「学校で発生する様々な問題について、子どもの最善の利益を念頭に置きつつ、教育や福祉の視点を取り入れながら、法的観点から継続的に学校に助言を行う弁護士のことをいう」とされています(「『スクールロイヤー』の整備を求める意見書」2018年1月18日)。
スクールロイヤーにはいくつかの形態がありますが、著者の神内聡氏は日本でただ一人の、弁護士資格を持った教師(高校の教諭であり、かつ弁護士でもある)です。

著者は、「子どもの最善の利益」を実現するために、全体的な立場から利害関係を捉える必要性を強く訴えています。この点、本書では、基本的に一方の当事者の利益を中心に考える弁護士が、学校で生じた問題に関与することの難しさが指摘されています。著者は、本Webサイト掲載の「今週の一言」において、弁護士が教育問題を議論する際は、「弁護士目線」のみならず、子どもや教師の立場に立って考えることの必然性を説いています(2021年2月1日「弁護士が教育問題を語るには」)。

著者がこれまで教員生活を送るなかで切実に感じたのは、「日本の教育政策には子どもたちの目線で考えるスタンスが決定的に欠けている」ことでした(本書269頁)。
そのことが顕著に表れているのが、いじめ対策についてだと言います。すなわち、「教育現場でまともに働いた経験がない政治家や法律家、文科省の官僚が、法律を制定しいじめ対策を講じている」と(42頁)。
2013年に「いじめ防止対策推進法」が制定されています。ところが、いじめに関する利害関係は、子ども・保護者・学校内部それぞれにおいて異なっており、「非常に複雑」かつ「多元的」であるにもかかわらず、法は、被害者と加害者の2項対立の図式でしか理解していないと、著者は厳しく批判します(59頁)。
そして、いじめを予防するのは難しく、求められているのは、いじめを適切に解決することを目指し、「学校に定期的に来て子どもたちと教師に寄り添ってくれる」スクールロイヤーだと述べています(75頁)。

本書は、自ら学校教育に携わる著者ならではの視点から考察された一冊です。
いじめや虐待など教育現場で生起する各種の問題が、「現場目線」を大切に、関係者一同の英知によって改善されることを願ってやみません。

目次
第一章 スクールロイヤーは救世主か
第二章 いじめ―予防は困難だが適切な解決の助言役に
第三章 虐待―弁護士との連携で防げる可能性は高い
第四章 不登校―多様な背景を見極め、調整役に
第五章 校則、そして懲戒処分―スクールロイヤーの腕の見せ所
第六章 保護者対応―弁護士会の見解は真っ二つ
第七章 体罰―現実的な対案を提示できなければなくならない
第八章 部活動―白黒つける法律では判断が難しい
第九章 学校事故―子どもと教師を守るために
第十章 教師の過重労働―原因はたった二つ

※1  「令和元年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」
https://www.mext.go.jp/content/20201015-mext_jidou02-100002753_01.pdf
※2  「令和元年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数<速報値>」
https://www.mhlw.go.jp/content/000696156.pdf

【書籍情報】2020年10月、角川新書。著者は神内聡。定価は900円+税。

【関連HP:今週の一言・書籍・論文】

今週の一言「弁護士が教育問題を語るには」
神内 聡さん(兵庫教育大学大学院准教授・弁護士・高校教員)

今週の一言「『いじめ防止対策推進法』を超えるいじめ対策は、日々の授業での取り組みで」
佐々木仁さん(公立小学校教諭)

なお、週刊東洋経済2020年11月21日号(82~83頁)に、本書に関する神内弁護士のインタビュー記事が掲載されています。


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