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憲法関連書籍・文献紹介
書籍『やばいデジタル―“現実(リアル)”が飲み込まれる日』
T. M

 改めて強調するまでもなく、スマートフォンやPCは私たちの日常生活において欠かせない存在になっています。スマホのカメラを通じて景色を観る、インターネット上の情報に従って行動・認識するなど、各種デバイスは私たちの「身体の一部」になっている場合すらあるでしょう。他方で、こうした端末を通じて自らの情報を多くの大企業に明け渡していること、そしてこうして集積された膨大な情報が世界中でビジネスに利活用され、特定の企業や個人が荒稼ぎしていることについては、自覚的である人はそう多くはありません。
 本書は、リアル(現実)がもはやデジタルに飲み込まれている「デジタル時代」における本質的な危機を明らかにし、私たちの暮らしにもたらす影響について検討する一冊です。
 本書の構成は「フェイク」をテーマにした前半(第1~2章)と「プライバシー」をテーマにした後半(第3~5章)との2部に分かれています。前者は「偽物」の情報が私たち個人、あるいは、ときには選挙キャンペーン等を通じて一国のゆくえを根底から揺るがすという脅威について、世界各国の事例を参考に紐解かれています。前半で鍵となるのはSNSの爆発的拡がりです。SNSによって「真実」と「フェイク」の境界は曖昧になり、私たちが「フェイク」に踊らされる事例が数多く発生するようになっています。個人の社会的地位は言うまでもなく、命まで奪われるという最悪の事例すら存在します。また、選挙やデモ活動に「フェイク」が利用されれば、討議と熟議、そして自律した市民を前提とする民主主義それ自体が立ち行かなくなるのです。前半の最後にはこうした事態に対抗するものとして台湾の事例を紹介し、私たちが参考にすべき具体的な取り組みが検討されています。
 後者は大手IT企業が収集、活用するスマホの利用歴などの情報―検索履歴は言うまでもなく、位置情報や移動手段までも―が私たちの生活にもたらす脅威について検討されています。こうしたデータが、例えば広告など商業目的に利用されていることはよく知られていますが、問題は、データに基づいた未来予測に従って「レッテル貼り」といった深刻な事態が生じていること、または当該巨大企業が国家(政府)と手を組み、国民を監視するというプライバシーが消滅する時代が到来するかもしれないといった、私たちの自由や権利が制限される危険性が存在することです。なお、コロナ禍の社会では各国が感染拡大防止の策として「接触追跡アプリ」の開発、実施にいそしんでいますが、本書はこの点についてもカバーしています。こうした「便利」なツールも位置情報、病歴といった個人情報のコアな部分を提供していることに自覚的になる必要があります。
 ただ、本書でも繰り返し指摘されているように、例えば「フェイク」情報を得た際にこれについてどう考え行動するのか、あるいは個人情報提供に同意するか否かといった事柄は、すべて本人次第なのです。私たち一人ひとりが膨大な情報を前に一歩立ち止まり、想像力や理性を駆使して、当該情報をどのように扱うのかを考え抜く力こそが重要です。
 私たちは便利さと引き換えに、というよりも、それ以上に喪ったものの方が大きいかもしれないことを本書は教えてくれます。「デジタル時代」の深刻な事態を打破できるか否かは「自分で考える」ことができるか否かが一つの鍵になるでしょう。

目次
はじめに 
第1章 フェイクに奪われる「私」―情報爆発と「ディープフェイク」
第2章 デジタル絶対主義の危険―フェイクが民主主義を脅かす
第3章 あなたを丸裸にする「デジタルツイン」―ビッグデータはすべてを知っている
第4章 さよならプライバシー―恐怖の「デジタル監視」時代
第5章 あなたのデータは誰のもの?―市民の主導権、企業の活用、政府の規制
おわりに 

【書籍情報】2020年11月、講談社現代新書。著者はNHKスペシャル取材班。定価は860円+税。


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