本書に通底する主張の一つは、相互に異なる者同士が手を携えて共に生きていく、「真の共生」の構図を見出す必要性です。
世界における富の極端な偏在、自国第一主義を臆面もなく掲げる政治的リーダーの登場など、特定の層が排斥される光景や人々の分断状態への危機意識はここ数年とくに強く指摘されています。こうした事態は人々の「共に生きる」力を脅かし、人類消滅の危険すら惹起します。著者は、その一つの象徴的現象として「ディグローバリゼーションdeglobalisation」を挙げます。「de」という否定の接頭辞を「globalisation」に当てていることから、「非グローバリゼーション(非グローバル化)」と翻訳するのが一般的ですが、著者は敢えてこの用語を「破グローバリゼーション」と呼びます。グローバル時代を破滅に追い込み、国家主義や排外主義を肯定するものとして作用すると、これを捉えるためです。本書はこの「破グローバル化」の危険性と克服の使命を読者と共有しつつ、当該現象の流れはいかにしてせきとめられるのかという問いから出発し、「破グローバル化」に対する人や企業の反応を分析しながら、これを克服するための諸条件を明らかにします。
本書の分析視角は多岐に渡ります。「豊かさの貧困」には深刻な問題と同時に「共生」が実現するための契機が内在していること、「共感性」や「包摂性」の本質的価値やこれを脅かす要因を分析する必要があること、第三次グローバル化におけるヒトとITの関係などが扱われ、いずれも「破グローバル化」の圧力、そして分断と孤立に抗するためのアプローチが検討されています。なお、当該考察における著者の問題意識は以下のとおりに定式化されています。すなわち、「経済活動は人間の営みだ。人間しか携わらない活動だ。人間による人間のための営みである。経済活動がそのような営みである以上、経済活動は人間を幸せにできなければ、その名に値しない。そう著者は確信しています。」(62頁)。著者の本書における問題提起や講ずるべき策の方向性は、いずれもこの言葉に裏打ちされたもので、人間らしさ、想像力や共感力を強調する内容になっています。
新型コロナウィルスのパンデミックは全世界的な体験として、いまも私たちの生活・生存を脅かしています。共に生きるという決断とそのための自覚的行動によって、国境を「超えて」共生を企図することが今まで以上に求められているのです。「多様性のなかの連帯が、真の共生を生む」という著者の主張を、本書によってぜひ跡付けてみてください。
目次
はじめに 政治家の過信、市民の不信
第1章 違うからこそ共に生きる
第2章 共に生きるとはどう生きることか
第3章 カネの暴走からヒトの共生をどう守るか
第4章 つながり過ぎていて共生できない
第5章 国境を「超えて」共に生きる
終 章 真の共生はいずこに
おわりに 「公共」のありか
【書籍情報】2020年9月、平凡社新書。著者は浜矩子。定価は820円+税
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書籍『大メディアの報道では絶対わからない どアホノミクスの正体』