マイナンバー制度が始まってからまもなく5年になります。マイナンバーカードの普及率は2割以下で、政府の当初の計画ほどには進んでいません。コロナ禍の特別定額給付金のオンライン申請もうまくいかず、マイナンバー制度は失敗だったという人もいます。
本書は、行政文書などからマイナンバー制度の真の目的を明らかにし、マイナンバー制度とマイナンバーカードの今とこれからを丁寧に見ていくことで、改めてマイナンバー制度の問題点や危険性を明らかにしています。国内だけでなく世界も含めた大きな流れの中で、マイナンバー制度の姿を「正しく」理解できる1冊です。
政府は、マイナンバーカードの健康保険証化などを進めています。その前提として、国民のカードへの不安を払拭すべく、「持ち歩いても大丈夫」、「マイナンバーを見られても悪用は困難」、不正に使用すると「ICチップが壊れる仕組み」などと謳った安全キャンペーンを行っています。
しかし、マイナンバーカードには氏名や生年月日など、マイナンバー以外の個人情報もかかれており、マイナンバーだけが漏えいすることなど考えられません。本書では非現実的詭弁であると指摘されています。また、制度開始時に内閣府の外局として発足した個人情報保護委員会が作成した「特定個人情報の適正な取り扱いに関するガイドライン」には、「個人番号が悪用され、又は漏えいした場合、個人情報の不正な追跡・突合がおこなわれ、個人の権利利益の侵害を招きかねない」とあること、さらにICチップが壊れてもマイナンバーカードには多くの個人情報が書かれており悪用の危険は残ることなど、本書にはセキュリティ対策の問題点がわかりやすく解説されています。
マイナンバー制度の目的は国民の利便性向上ではありません。「マイナンバー制度の出発点は、社会保障費の削減を狙った社会保障番号です。個人情報を名寄せし、プロファイリングし、あなたが真に支援が必要な人なのかどうかを見極めるのがその役割です。そこに納税者番号としての機能が乗っかり、実現されたのがマイナンバー制度です。」(本書p227)
行政機関等は、マイナンバーカードの普及とは関係なく、すでに保有している国民等の個人情報にマイナンバーを紐付けして名寄せを行い、マイナンバーの利用拡大もほぼ順調に進められています。
本書では、マイナンバーが本当に怖いのは、漏れて悪用されることではなく、政府や大企業が合法的にマイナンバーを使って私たちの個人情報を名寄せし、プロファイリングし、評価、分類、選別、等級化して、誘導や制限、排除、優遇などをすること(本書p229)だと指摘されています。
ヨーロッパではプロファイリング規制が始まり、行政機関等が顔認証を使用することへの反発が強まる中、日本では“便利”が先行し、個人情報保護の議論が遅れているようです。
2015年に全国で提訴されたマイナンバー違憲訴訟も継続中です。是非多くの方々とマイナンバー制度の真の目的や危険性を共有し、「プライバシ―権」「自己に関する情報をコントロールする権利」「プロファイリングされない権利」などについてどうあるべきか考えていきたいです。
目次
第1章 マイナンバー制度は失敗したのか
1 なぜ10万円給付のオンライン申請はうまくいかなかったのか
2 マイナンバーとマイナンバーカード
第2章 マイナンバー 今、どうなっている
1 マイナンバー制度は何のため?
2 プロファイリングと共通番号
3 戸籍情報へのマイナンバーの紐付け
4 預貯金口座へのマイナンバーの紐付け
第3章 マイナンバーカード 今、どうなっている
1 マイナンバーカードの普及と安全キャンペーン
2 公的個人認証の電子証明書
3 マイナポータルとマイキーID
第4章 マイナンバー これからどうなる
1 マイナンバーによる名寄せの拡大と資産把握
2 医療等分野の識別子としての被保険者番号
3 自治体戦略2040とマイナンバー
第5章 マイナンバーカード これからどうなる
1 マイナンバーカードの普及へのあの手この手
2 消費活性化とマイナポイント
第6章 マイナンバーカードが健康保険証に
1 マイナンバーカードを健康保険証に
2 あまりにも多い問題点
3 健康保険証と顔認証
4 まだまだある問題点
第7章 身分証明書としてのマイナンバーカード
1 強まるマイナンバーカード取得への圧力
2 身分証明書としてのマイナンバーカード
第8章 今、必要なことは何か
あとがき―“空っぽ”の菅首相のデジタル化政策―
【書籍情報】2020年12月、日本機関紙出版センター。著者は黒田充。定価は1600円+税。
【関連HP:今週の一言・憲法関連論文・書籍情報】
今週の一言
『マイナンバー(共通番号)制度の仕組みとその危険性』白石孝さん
『医療費抑制と地方統制を強める医療保険制度改革関連法案』長友薫輝さん
書籍『マイナンバー制度―順番管理から住民を守る』