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憲法関連論文・書籍情報
書籍『安保法制違憲訴訟―私たちは戦争を許さない』
T.M

 2015年9月19日、参議院本会議におけるいわゆる「安保法制法」の強行採決から、はやくも5年が経過しました。前年のいわゆる「7・1閣議決定」も含め、前政権が集団的自衛権の行使を容認した一連の顛末は記憶に新しいと思います。憲法第9条は一字一句変わっていないにもかかわらず、着実に日本は「戦争のできる国」への歩みを進め、こうした「異常」な事態がもはや常態化しつつあるという恐ろしい状況です。他方、議会と内閣がもはや立憲主義を忘却していることを踏まえ、司法の役割への期待が、全国の市民、専門家、弁護士から主張されています。本書は、司法への働きかけの一形態として安保法制に対する違憲訴訟(2016年4月開始)について、その背景や経緯、意義と到達点、そして課題などを示すアクチュアルな内容になっています。なお、「安保法制違憲訴訟全国ネットワーク」代表の寺井弘一氏と当研究所の伊藤真所長が編者を務めています。
 本書によれば、安保法制違憲訴訟は2020年10月の段階で全国22地方裁判所において25件の訴訟が提起されており、原告は7699名、弁護士は168名となっています。原告の中には自ら戦争や原爆の被害に遭い塗炭の苦しみを味わった方、あるいは大切な家族が戦争の犠牲になった方などがおり、それぞれが様々な背景を抱えていますが、共通するのは「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こ」らないこと(憲法前文)、これを実現させなければならないという想いです。
 本訴訟の意義についていくつか説明がなされていますが、その一つに、政府への忖度を重ねる司法それ自体の在り方を改めて問うというものが挙げられています。言うまでもなく、司法は近代立憲主義の大原則である三権分立の一翼を担っています。しかしながら、昨今の司法判断は各裁判官の「良心」を疑いたくなるような、政府の政策に迎合に等しい審査内容、判決となっています。安保法制違憲訴訟を通じ、司法や裁判官の本来的な役割、すなわち「憲法の番人」として、三権のうちの一国家作用としての自覚を喚起することが望まれます。
 なお、本書では安保法制違憲訴訟がどのように争われているかという日本の司法システムのある種テクニカルな面についての説明も丁寧になされています(「付随的違憲審査制」を採用しているために生じる技術的な困難や採られるべき工夫など)。また、戦後日本の砂川、恵庭、長沼事件を含むいわゆる「平和訴訟」を概観し、これら訴訟を読み解いたうえで安保法制違憲訴訟の位置付けが示されており、拡がりのある内容になっています。
 2020年10月1日時点で札幌、東京、大阪など7つの一審判決がなされていますが、本書はその共通点として「原告らの被害や専門家の知見に真摯に向き合わず、憲法価値の擁護者としての自覚が欠如している」裁判官らの態度を指摘しています。果たして司法は政治部門の暴走を追認する機関へと堕落したのでしょうか。裁判は今この瞬間も継続しており、今後の判断が注目されます。司法の在り方を問い、そして憲法第9条はもちろんのこと、平和的生存権や人格権、憲法改正権(=主権の行使)を「不断の努力」によっていかに保持するのか、これらを再考するにあたっても本書は必読の一冊と言えるでしょう。

目次

第一 まえがき
第二 安保法制違憲訴訟の意義と到達点
第三 安保法制違憲訴訟は司法に何を問うているか
第四 安保法制違憲訴訟における七判決の評価
第五 憲法第九条をめぐる戦後の平和訴訟の歩み
第六 あとがき

【書籍情報】2020年11月、日本評論社。編者は寺井一弘・伊藤真。定価は1200円+税。

【関連HP:今週の一言・憲法関連論文・書籍情報】

今週の一言
「戦争させないために ~ 憲法裁判と平和憲法」
児玉勇二さん(弁護士)

書籍『平和憲法の破壊は許さない  なぜいま、憲法に自衛隊を明記してはならないのか』
書籍『戦争裁判と平和憲法―戦争をしない/させないために』


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