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憲法関連論文・書籍情報
書籍『北欧の幸せな社会のつくり方ー10代からの政治と選挙』
T.M

 スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんがたった一人で「気候のための学校ストライキ」を議会周辺で始め、毎週金曜日、学校には行かず、気候変動対策について議員やおとなたちに強く抗議する姿はメディアを通じて私たちに驚きをもたらしました。彼女の静かなストライキはSNSなどを通じて世界各地に報じられ、グレタさんは2019年にはノーベル平和賞候補者として話題になり、米タイム誌では「今年の人」に史上最年少で選ばれました。ストライキ開始当時、選挙権すら有しない15歳であった彼女と、そして彼女に共感し支持を表明した多くの若者やおとなたちを生んだ北欧の「民主主義」、すなわち政治参加の文化はいったいどのような姿として描かれ得るのか。本書は、ノルウェー在住のジャーナリストによる数多くの取材や自身の経験をもとに、多くの写真を掲載しながら、その背景を紐解く一冊です。
 日本では「お上」という言葉に象徴されるように、国会議員など公的な空間で活動する人々を「自分とは異なる特別な存在」として極端に二分化する傾向があります。他方、本書で紹介される北欧の政治風景はこれと全く異なります。選挙中は候補者が戸別訪問を通じて有権者と対等に議論(「おしゃべり」)することは言うまでもなく、各党の選挙スタンドには無料のお菓子やコーヒー、文房具などが常備され、党員と市民、あるいは市民同士が社会のあるべき姿について様々な角度から話を交わします。国民的娯楽であるチェスをオスロ市長が市民と楽しむ選挙風景は日本では想像もできません。
 また、こうした選挙運動に子どもが積極的に参加するのも特徴です。「民主的なプロセスを見せたい」ために子どもを連れてスタンドを訪問する親は北欧では少なくありません。こうした親やおとなたちの姿を見て育った子どものなかには、18歳で被選挙権を得て、実際に当選し、学生としての身分と地方議員などの役職とを兼業する者まで現れます。それは北欧では決して「珍しい」、「異常な」光景ではなく、国民が形成し培った価値秩序から当然に導かれる自然なものなのでしょう。
 当然、教育の場、たとえば高校生の授業においても「民主的」な方針が徹底されています。教科書は副次的なもので、授業内容は知識の詰め込みや丸暗記ではなく、自分はある問題についてどう考えるのか、また自分とは異なる意見はどのようなものが想定されるか、相手の意見を尊重するということはどういうことかなど、答えのない問題に高校生は日々チャレンジしています。教育の過程で得た一種の「成功体験」が子どもたちを自然に選挙や政治の関心へと向かわせるのかもしれません。
 もちろん、北欧が完璧なモデルとはいえません。北欧においてもテロや難民問題など多くの国家的、社会的困難が生じており、試行錯誤で対策が講じられています。それでもなお、同じく民主主義を採用する日本が北欧から学ぶことは少なくないと、本書を通じて改めて学ぶことができます。

はじめに
Chapter 1 選挙はお祭り! 楽しい北欧流選挙
Chapter 2 若者と考え作る民主主義
Chapter 3 未来を担う若者たち
Chapter 4 日常にあふれる政治
おわりに

【書籍情報】
2020年5月、かもがわ出版。著者はあぶみ あさき。定価は1800円+税。


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