本書はERCJ選書として企画された石川元也弁護士のオーラルヒストリーです。
石川弁護士は、盟友である岩田研二郎弁護士の言葉を借りれば「人権と民主主義の擁護という戦後の弁護士の社会的活動の先頭をいかれた弁護士」であるとともに、「新刑事訴訟法を憲法に基づき実質化していく実践活動に尽力し数々の新判例を引き出した傑出した先駆者」です。また、石川氏は、個人の力だけではなく、弁護士会や自由法曹団という組織をリードして、社会的に大きな力を作っていく活動に注力し、大きな成果を生み出してきました。米寿を過ぎた今もなお、日野町事件の弁護団員として活躍されています。
石川氏は、労働民事事件や一般民事事件の分野でも多くの新判例を導き出してきましたが、本書では刑事事件に絞って62年間にわたる弁護活動の特徴的な事件や刑事司法問題への取り組み、そこでの問題点などが語られています。
本書では石川氏の携わった数々の事件の概要や争点、訴訟の経緯、判決が刑事裁判全体に及ぼした影響のほか、弁護活動の教訓や印象に残るエピソードも数多く語られています。事件を全く知らない読者でもこんなことがあったのかと興味深く読むことができるようになっています。法律を学んでいる人であれば、聞いたことのある事件が次々に出てくるので石川氏の功績に驚かされることでしょう。
岩田氏によると、石川氏は「弁護団でも委員会でも理念的な論争には加わることなく、常に具体的な事実に即して、筋を通しながら、実践的な意見を述べられ、落ち着きどころを探られる」そうです。この「事実と道理」に即したたたかい方が、数々の大衆的裁判闘争で多くの成果を上げてきたように思われます。
本書では、弁護士となるまでの生い立ちや、日本弁護士連合会の刑法「改正」阻止運動、弁護人抜き裁判法反対運動の経緯、その成果・教訓、さらに脳死と臓器移植問題、捜査の記録化に関する法律案の提案なども語られています。
「創意と工夫をこらし、法律で禁止されたこと以外は許されているはずだ、ということで、既成の観念にとらわれず、ゼロベースで考え直すことで、あらゆる可能性を汲み取り、実現しようとされた」石川氏の弁護活動の姿勢は多くの人に希望を与えてくれます。
弁護士という職業に関心のある中高生、すでに法律の勉強を始めている方々、法曹として活躍されている方々、そして人権と民主主義を擁護する訴訟に関心のある多くの方々にぜひとも読んでいただきたい一冊です。
【書籍情報】2020年1月、日本評論社。著者は石川元也、インタビュアーは岩田研二郎・斉藤豊治。価格は1500円+税。