実社会でおかしいと感じる事柄について、憲法上の問題点を明らかにし、学説や判例の考え方からどのように考えることができるのか、どのように判断するのが妥当なのかを考察するのは楽しいものです。実際に憲法問題で理不尽な思いをしている当事者にとって「楽しい」という表現は適切でないかもしれませんが、問題を考察する過程で日本国憲法の個人に対する「優しさ」や心ある法律家の解釈に感動することは少なくありません。本書は個人を起点とする適正な処遇が確保されるような日本社会の実現を目指すことを基本的な視点として編まれているのでなおさらです。
本書は、憲法26条にいう「普通教育」を終了して社会に出て人生を送っている人を念頭に、現在訴訟進行中の問題やまだ訴訟が提起されていない憲法問題を取り上げ、法的に考察するための材料を提供する一冊です。憲法は決して我々と縁遠いところにある他人事ではなく、身近な諸問題と関係していることが実感できると同時に、いまの社会の課題が鮮明に浮かび上がります。
本書は、憲法上の問題の所在を明らかにする「できごと」と、学説や簡単な判例などを紹介し考える手がかりを示す「考えてみよう憲法問題」の二段構成で、初学者向けにやさしく解説されていますが、伊藤真の憲法入門[第6版]を一読してから本書に取り組むと、理解が深まりより憲法を楽しめると思います。
目次
はしがき
第1部 日常生活と自由
1 学校での礼拝は許されないのだろうか?
2 君が代への敬意は義務なのだろうか?
3 タトゥーは1つの文化なのだろうか?
4 公表された過去は忘れてもらえないだろうか?
5 ヘイト・スピーチ解消のために何ができるだろうか?
6 営業行為にはどのような競争ルールが適切だろうか?
7 人違いの逮捕・取調べは許されるのだろうか?
第2部 自己の人生をつくりあげようとする営みと権利
8 おじいさんの手術に同意してもよかったのだろうか?
9 障害者は子供をつくることも許されないのだろうか?
10 企業は採用予定者の病歴を調べてもよいのだろうか?
11 なぜ同性同士は結婚できないのだろうか?
12 性別を理由に行きたい大学に行けないことがあるのだろうか?
13 わたしらしく生きるために支援を受けられるだろうか?
14 病名によって助成の有無が決まってよいのだろうか?
15 大人の言うことが聞けない子どもにとってよい学習環境とは?
第3部 参政権と統治の基本的枠組み
16 投票したい「人」と「政党」が違っていたらどうなるのだろうか?
17 教育者が投票運動に関わってはいけないのだろうか?
18 なぜ会議は2つもあるのだろうか?
19 内閣はいつでも議会を解散できるのだろうか?
20 裁判所に意見を求める制度とはどのようなものだろうか?
21 裁判官はSNSで意見を発信できないのだろうか?
22 即位を辞退することもできるのだろうか?
23 国は自衛官を外国に送ることができるのだろうか?
24 車いすで飲食店に「入れる街」「入れない街」、どっちがよい?
【書籍紹介】2020年5月、法律文化社。憲法を楽しむ研究会編。著者は民谷渉、森口千弘、中尾太郎、井上幸希、桧垣伸次、織原保尚、井上一洋、長岡健太郎、青木志帆。価格は2,700円 +税。