2018年10月より東京新聞に「税を追う」というキャンペーン記事が随時掲載されてきました。この記事は国や地方自治体の税金の使い方を追及することを目的に、医療費や公共事業費、そして辺野古の米軍基地建設など様々な角度から「税から生まれる利権」について検証を続けてきました。本書は、そのうち「防衛費」に関して本記事で報じられた内容にさらに取材を加え、社会部の取材班のメンバーが新たに書き下ろしたものです(「プロローグ」参照)。
第二次安倍政権以降、防衛費は毎年過去最大を更新しています。これを背後から支える、2014年の所謂「7.1閣議決定」や2015年9月の安保関連法などの立法がなされたことは読者の記憶にも新しいところです。本書は、日本の防衛費が右肩上がりであることの主要な要因が、こうした国内的な動きもさることながら、アメリカからの大量の武器購入にあることを、実証的に明らかにしています。
安倍政権は「輸送機オスプレイ」や地上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」などのアメリカ製兵器を大量に購入しています。防衛省が防衛装備品を購入した相手のランキングをみると(本書23頁)、2012年度には三菱重工業など日本企業上位についで、4位(1480億円)であったアメリカ政府が、2015年度から2017年度にかけてトップになり、その額は2017年度で3807億円にのぼります。内訳としては、たとえば一機100億円前後(さらに、毎年の維持費にも膨大な費用がかかります)するF35A戦闘機28機などがあります。こうした日本の行為は世界的にも際立っており、アメリカ国防衛省傘下の国防安全協力庁が公表したFMS(後述)の調達額によると、2010年度に約5億ドルであった日本の調達額は、2017年度に約8倍の38億ドルに膨れ上がりました。本書においては、アメリカ製兵器輸入にあたり、FMS(foreign military seles:対外有償軍事援助)―なぜか日本政府はselesを「援助」と訳しています―というルートを用いていることが指摘されています。FMSは商社ではなくアメリカ政府(先述の国防省国防安全協力庁)を窓口としたアメリカ製兵器の取引方法で、高性能の兵器を取得できるものの、その取引の主導権はアメリカが握るため、価格の見積もりなどにおいて「米国の言い値」になること、納期もアメリカ側の都合で遅れるなど、多くの問題を伴います(本書66頁参照)。それにもかかわらず、安倍政権はFMSによる取引を拡大し続け、日本の調達額は世界の中で三番目になっているのです。この背後には、トランプ大統領の日本に対する高圧的な態度、そしてこれを承服し、トランプ大統領に過度に入れ込む安倍政権の姿勢があるのは言うまでもありません。
以上は本書の内容のほんの一端です。本書においては、日本のアメリカ製兵器大量購入とその背景にある安倍晋三とトランプ大統領との「蜜月」関係について、図や統計を参照しながら実証的かつ多角的に検証されています。9条は一字一句かわっていないのにもかかわらず、その実態から見れば、日本の防衛政策は9条をこえていると評価できるでしょう。従来の政府解釈を国会での審議なしに変更し、政権は国民の合意を経ないまま強行的に「軍拡」を推し進めています。議論や説明責任は一切尽くされていません。本書は「税」の行方とこれに伴う利権という観点から、こうした現状に警鐘を鳴らす重要な一冊です。
目次
プロローグ ~軍拡の道を再び進み始めた
第1章 自衛隊を席巻する米国兵器 ~トランプ大統領の兵器ディール
第2章 アメリカ絶対優位の兵器取引 ~対外有償軍事援助
第3章 降って湧いた導入計画 ~ミサイル防衛のイージス・アショア
第4章 実は火の車の防衛費 ~米国兵器爆買いのツケ
第5章 聖域化する防衛費 ~兵器輸入拡大で禁じ手連発
あとがきにかえて ~税を追い利権を書く
【書籍情報】2019年12月、文春新書。東京新聞社会部。定価は850円+税。