本書は、著名な憲法研究者によって執筆された、憲法学をめぐるエッセイ集です。全35篇から成る各エッセイは、書下ろしのほか、羽鳥書店Web連載、『UP』、『世界』などを初出としています。タイトルを見るだけでも、憲法や法という学問の深遠さを物語っており、実際、いずれのエッセイも法とこれをめぐる現象の本質を突いた濃厚な内容となっています。
各エッセイは扱う時間(時代)も空間(国や地域)も幅広く、切り口も非常に多彩で鮮やかです。本書において一貫する問題設定はどのような点に求められるか、これを敢えて抽出すれば、日本という国を形作り、そして現政権が前のめりに変更を叫ぶ憲法が、そもそもどのような存在意義を有しているのか、いかなる使命を担っているのかということにありそうです。こうした主題が、古典も含めた数多くの知見に依拠しながら簡潔かつ説得的に示されています。
本書における著者の意図がそこにあるとは必ずしも明言されてはいませんが、こうした基本的な原則を理解し共有すれば、現在日本で問題となっている憲法軽視の政治、政権担当者の発言や態度について、その本質的な問題点がどこにあるかを見定めることができるでしょう。本書はそのための実践的な対抗原理を構成するヒントになる一冊だと考えられます。
目次
はしがき
第一部 憲法学の虫眼鏡
森林法違憲判決/法律の誠実な執行/カール・シュミット『政治的ロマン主義』/ThickかThinか/有権解釈とは何なのか/八月革命の「革命」性……全20篇
第二部 法の森から
ルソーのloiは法律か?/戦う合衆国大統領/フランソワ・ミッテラン暗殺未遂事件/英米型刑事司法の生成……全9篇
第三部 比較できないこと
比較できないこと/サリンジャーと出会う/人としていかに生きるか―カズオ・イシグロの世界……全6編
【書籍情報】2019年11月、羽鳥書店。長谷部恭男著。定価は2800円+税。