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憲法関連論文・書籍情報
書籍『憲法を学問する』
M.T

 本書は、公益財団法人セミナーハウス主催で2016年6月11・12日に開催されたセミナー「憲法を学問する」の内容を再現、整理したものです。本セミナー開催の背景には、これまでの憲法解釈を覆し、集団的自衛権の行使を一部容認した2014年7月閣議決定、およびこれに基づく2015年9月のいわゆる安保法制の「成立」など現政権下における日本国憲法をとりまく状況の大変動があります。開催要項によれば、このような国民の憲法への関心が高まるなかで、「主権者の一人として…プロパガンダにだまされない批判的な眼を養」うために、「政治的・党派的な文脈で扱われがちな憲法」を「学問する」ことが目的だとされています(340頁)。      
 本書は、樋口陽一と石川健治の子弟対談に始まり(第1部)、樋口陽一とその直接・間接の門下生ら(石川健治二、蟻川恒正、木村草太、宍戸常寿)によるパネルディスカッション(第2部)、各講師による4つの分科会―石川健治「統治と行政」、蟻川恒正「個人の尊厳」、木村草太「立法と司法」、宍戸常寿「表現の自由」―(第3部)、 総括討論(第4部)という構成です。どれをとっても学術論文とは異なった新鮮な読み応えがあります。講師らはいずれも言わずと知れた著名な憲法学者ですが、師である樋口陽一を批判し、樋口憲法学(特に近代立憲主義の議論枠組み)を乗り越えようとする極めて誠実な学問的姿勢が散見し、読者にとっては贅沢な内容です。分科会においては、参加者(学生、社会人など―82歳の高齢者もいらした―「まえがき」参照)との質疑応答により報告者の問題意識が有機的に発展し、勢いある展開によっていずれのテーマもあっという間に読み終えてしまいます。     
 言うまでもなく、本書に掲載された具体的な内容はいずれも冒頭の開催目的に十分にかなったものです。ツイッターやネットの短文記事も時には有益ですが、そのような一見「わかりやすい」情報に安易に与するのではなく、「憲法を学問する」立場から今一度日本社会を見直し、憲法の議論の土台を再点検する、そして今後の政権による政策実行への対抗原理を準備することも、迂遠ではあるけれど最重要となるアプローチの一つです。本書を通じ、わたしたち読者はこれを強く自覚することができます。なお、本書のなかで蟻川氏はこのような立場、つまり自らの理性を用いて公共的討議を行うことを国民の一種の「義務」であるとも述べています(蟻川恒正「個人の尊厳」)。これは一歩間違えると自民党改憲案と親和的になり得る剣呑な主張にもみえますが、蟻川氏は憲法史における「尊厳」概念を媒介に、敢えて当該「義務」を日本国憲法の文脈で読み込み、その重要性を指摘します。詳細はぜひ本書でご覧になってください。

目次

第1部 対論「憲法学の体系」― 樋口陽一・石川健治

I 比較憲法学の体系を考える
II 方法としての「異世界」
III 講義と体系の遍歴
IV 憲法総論の試みとその比較
V パネルディスカッションへ

第2部 パネルディスカッション ― 石川健治・蟻川恒正・木村草太・宍戸常寿/樋口陽一

I 「憲法学の体系」を聴いて
II それぞれの「知的母国」から
III 国家と立憲主義のnarrative
IV 樋口「近代立憲主義」論をめぐって
V 総論の時代と各論の時代
VI 統治の時代
VII 分科会に向けて
VIII おわりに

第3部 分科会

第1分科会「統治と行政」― 石川健治

I 問題群
II 統治の作用と主体
III 設問としての「主権」
IV 作用と組織
V 作用としての統治
VI 入江俊郎と法律日本語
VII 統治行為論と裁量行為論
VIII 統治行為の「審査」
IX 日本国憲法における「執政権」の所在
X 「外交権の民主化」としての議院内閣制
XI 立憲主義・民主主義と「議院内閣制」の対抗関係
XII 「責任」の諸相
XIII 議院内閣制の真贋
XIV ロベスピエールの影
XV 「議院内閣制」の変装か変奏か
XVI 改造実験の諸相
XVII 日本国憲法の場合
XVIII 政府をつくる

第2分科会「個人の尊厳」― 蟻川恒正

I 個人の析出
II 日本国憲法の権利体系
III 「公共の福祉」というアポリア
IV 「公共の福祉」というアポリア・再び
V 討議

第3分科会「立法と司法―法の支配・法文・法解釈」― 木村草太

第一部 法の支配から考える立法と司法

I 法の支配の理念
II 立法機関のあり方
III 立法以外の国会の任務
IV 司法の概念
V 法解釈と法の支配

第二部 立法と司法・実践編

I 2015年安保法制
II 謝罪広告問題
おわりに

第4分科会「表現の自由」― 宍戸常寿

I 表現の自由
II 分科会の論点
III 討論―論点1 放送の公平性
IV 討論―論点2 忘れられる権利
V 総合討論

第4部 総合討論 ― 松原俊介

I はじめに
II 個人の尊厳
III 立憲・非立憲
IV 議院内閣制と解散権
V 公共の福祉
VI 「専門家の職責」と「個人の尊厳」
VII 再び個人の尊厳について
VIII おわりに

※第1部、第2部、第3部第1分科会については、月刊「法学教室」誌に掲載されたものに加筆をし収録したものです。

【書籍情報】2019年5月、有斐閣。著者は樋口陽一、石川健治、蟻川恒正、宍戸常寿、木村草太。定価は2700円+税。



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