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憲法関連論文・書籍情報
書籍『健康で文化的な最低限度の生活』
M.T

 日本国憲法の条文が一字一句違わず漫画のタイトルになったのは初めてではないでしょうか。憲法25条に明記された、いわゆる「生存権」に関する条文「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という文言。本作品は、タイトルが示す通り、この憲法上の権利の実現に向けた取り組みがリアルに描かれています。
 本作品は主人公の新人生活保護ケースワーカーと、彼女を支え、時には対立する同期とベテラン職員、そして生活に困窮する人々とが主な登場人物となっています。彼ら・彼女らの活動・葛藤を通じ、読者は多くを学ぶことができます。たとえば生活保護という法制度をとりまく行政の現場状況。行政上の決定は具体的にいかなる方針や法的根拠に基づいているのか、そしてこれが実際の現場で貧困を目の当たりにするケースワーカーの希望と食い違う場面で、いかにこの困難に向き合うのか。これは同時に、日本社会における貧困の形態が極めて多様であることも物語っています。当然ですが、生活に困窮する人々はそれぞれ貧困に陥る固有の背景をもっています。これを図式的に理解し、多様性や固有性を捨象しすぎてしまうことで、本当の意味でのサポートへと繋がらない場合があるのです。わたしたち読者はそのような日頃「隠れている」事象に気づかされ、貧困問題を一面的にしか理解していないことを知ります。
 第7巻から最新刊の第8巻にかけては「子どもの貧困」が主要なテーマとして設定されています。「子どもの貧困」編では、貧困のなかでも懸命に生き、人生を取り戻そうとする子どもと母親の姿、そして支える者と支えられる者とが互いに成長していく過程がエモーショナルかつリアルに描かれています。一般的に、「子どもの貧困」は親が特に配慮するため「隠される」傾向にあるといわれています。また、知識の不足、助けを求めても応えてもらえなかったネガティブな経験などから、「助けて」とサインを出すことをあきらめてしまう親がいます。進学できる子どもは経済的に困窮していないだろう、子どもの貧困はその家庭、特に母親の「自己責任」だという「貧困観の貧困」が問題解決を遠ざけている一つの要因である点について、本編を通じて改めて考えることができます。
 第8巻の最後にはこのような問いがなされています。「子どもは、未来だ。子どもを大切にできない場所に未来は来ない。私達の社会は、子どもと… 子どもを育てる者にとって幸せな社会だろうか―…?」。この問いは、日本社会における貧困の本質的な問題をあぶりだす時宜にかなったものです。本作品の読者のみならず憲法尊重擁護義務を負うもの、社会を構成するすべてのメンバーに対して向けられるべきものだといえるでしょう。

これまで発刊された主な内容は下記の通り。
第1巻:生活保護のお仕事(第一話)。
第2巻:「就労支援」の実態、「不正受給」編開始。
第3巻:「不正受給」編完結。
第4巻:「扶養照会」編完結。
第5巻:「アルコール依存症」編開始。
第6巻:「アルコール依存症」編完結。
第7巻:「子どもの貧困」編開始。
第8巻:「子どもの貧困」編完結。

 

【書籍情報】2019年7月、最新刊第8巻、小学館。著者は柏木ハルコ。定価は630円+税。

【関連HP:今週の一言・書籍・論文】

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