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浦部法穂の「憲法雑記帳」

 

第21回 「北朝鮮の脅威」と「アメリカの脅威」


浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2018年2月23日

 平昌オリンピックへの北朝鮮の参加をめぐって、「北」の「微笑み外交」にだまされてはならないとか、韓国の文在寅政権が「北」との融和政策に舵を切って日米韓の足並みが乱れるようなことがあってはならない、とかといった声が、日本政府や日本のマスコミから頻繁に聞こえてくる。核・ミサイル開発を一向にやめようとする気配もない北朝鮮に対して、日米韓が一体となって強力な圧力をかけ続けなければならないときに、オリンピックだからといって甘い顔をみせるのは向こうの思うつぼではないか、というような感じである。

 オリンピックをめぐっての文在寅政権の「北」への対応は、たしかに、私も「ここまでするの?」と思う部分もある。たとえば、アイスホッケー女子の「南北合同チーム」などは、「それはないだろう!」と思わざるをえないし、あまりにもオリンピックを政治的に利用しすぎだと思う。あるいはまた、もう一つの論点である、北朝鮮の核・ミサイル開発をなんとしてもやめさせなければならないというのも、そのとおりである。だからといって、安倍首相が文在寅大統領との会談で「オリンピックが終わったら米韓合同軍事演習を再開すべきだ」などと差し出がましいことを言うのは、傲慢すぎる態度で、文大統領が「内政問題だ」と不快感を示したというのは、当然のことである。アメリカの大統領には「なんでもごもっとも」で、卑屈なまでに「ご機嫌取り」に終始しているくせに、韓国はじめアジア諸国には「上から目線」で傲慢な態度で接するというのは、安倍政権の「対米盲従、アジア蔑視」という染みついた体質の表れ以外のなにものでもなかろう。

 さて、北朝鮮の核・ミサイル開発問題だが、なんとしてもこれをやめさせなければならないということについては、上に書いたとおり、私もまったく異論はない。だが、安倍政権の主張するような「強力な圧力」一辺倒で、本当にやめさせることができるのか。私はそうは思わない。北朝鮮に核・ミサイル開発を断念させるためには、まず、そもそも北朝鮮がなぜ核・ミサイル開発にここまで執念を燃やすのかを考えてみる必要があると、私は思う。北朝鮮が核・ミサイル開発に執着するのは、要するにアメリカが軍事力を使って「金王朝」を滅ぼしに来ることを恐れているからである。日本では「北朝鮮の脅威」ということが政府・マスコミそろって盛んに喧伝されるが、北朝鮮にとっては「アメリカの脅威」なのである。そして、彼らは、この「アメリカの脅威」に対抗するには核武装してアメリカ本土を直接攻撃できるミサイルを持つことしか道がない、と信じ込んでいるわけである。つまり、「もし体制転覆をねらってわれわれを攻撃するなら、アメリカ本土に核弾頭を打ち込むぞ」という「脅し」をきかすことによってアメリカに軍事攻撃を思いとどまらせ、体制の「安全保障」を図ろう、という発想であり政策なのである。

 これは、しかし、どこかで聞いたような、見たような、発想であり政策ではないか? それも、私たちのきわめて身近なところで。そう、要するに「核抑止論」であり、それはアメリカや日本もまったく同様に依拠している安全保障政策なのである。「唯一の被爆国」であるにもかかわらず「核兵器禁止条約」に反対し、トランプ政権による「核兵器を使いやすくする」ための核戦略指針見直しを何のためらいもなく即座に「高く評価する」と言ってのける日本の政権の、このありえない姿勢も、米国の「核の傘」の下にいれば他国に軍事攻撃を思いとどまらせ国の安全保障を図ることができるという「核抑止論」に依拠しているからこそのものである。つまり、トランプも安倍晋三も、金正恩とまったく同じ発想でまったく同じ政策をとっているのである。同じ考え方で同じ政策をとっている者の一方が他方に対してその政策の放棄を迫っても、説得力はゼロ、相手が従うはずはない。そんななかで「圧力」をどんどん強めて締め上げていけばどうなるか。前世紀、いわゆる「ABCD包囲網」ともいわれた強力な経済制裁で締め上げられて孤立・困窮した挙げ句に、アメリカに対する軍事攻撃という一か八かの行動に出たどこかの国。北朝鮮がそれと同じような行動に出ることは100%ないと言い切れるのだろうか。

 先にも述べたように、北朝鮮の核・ミサイル開発は「アメリカの脅威」に対抗するための「核抑止力」という発想にもとづくものである。だとすれば、この核・ミサイル開発をやめさせるためには、北朝鮮にとっての「アメリカの脅威」をなくすとともに、「核抑止論」が誤りであることを彼らに理解させることしかない。北朝鮮の政治体制は決して好ましいものではないが、だからといって他国が軍事的にそれを転覆させていいということにはならないのだから、アメリカが体制転覆の意図はないことをはっきり伝えることが、まず第一。それから、より重要な点として、「核抑止論」の誤りを国際社会の共通認識としていくこと。この二点が、北朝鮮の核・ミサイル開発をやめさせるための必須条件だと思う。後者の点に関して、「唯一の被爆国」の責任は大きい。その日本が「核の傘」に頼り「核抑止論」に依拠しているかぎり、「北」の核・ミサイル問題の解決はほど遠いと思う。



 

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