法学館憲法研究所の浦部法穂顧問(神戸大学名誉教授)の新刊です。第2版から10年ぶりの改訂となっています。この間、憲法をめぐる状況は悪化の一途をたどっています。例えば2013年の特定秘密保護法成立、2014年の集団的自衛権行使容認の解釈改憲、2015年の安保法制成立等々。本書では、こうした社会情勢を踏まえ、更にヘイトスピーチや生活保護制度の改悪など、新しい諸問題を採り上げ、憲法解釈を行なっています。まさしく明解な切り口と説得力溢れる浦部憲法学の真骨頂とも言える一冊です。
やはり憲法状況の一番のターニングポイントは、2014年7月の安倍内閣による集団的自衛権の行使を合憲とする「解釈変更」でしょう。著者は「権力担当者が、従来みずから課してきた憲法上の縛りを(中略)勝手に緩めることができるというのでは、もはや憲法の存在意義さえ無にする。これは、憲法を無力化するクーデターにほかならない。立憲主義に対する無知・無理解は、いま、ここまで深刻な事態を招いているのである」と痛烈に批判しています。
そして著者が多くのページを割いている章が「平和のうちに生きる権利」です。なかでも面目躍如たるものは「自衛権」の考察です。「自衛権」という概念は、第一次世界大戦後の不戦条約などの戦争違法化の国際世論の中で、帝国主義列強による植民地争奪戦争を正当化するために持ち出されたものだと指摘します。とすれば「自衛権」という概念は、「帝国主義の遺物」というべきものです。「これが『自衛権』の『真実』であり、そのような『帝国主義の遺物』たる『自衛権』は、帝国主義との決別宣言としての平和主義を掲げる日本国憲法とは、もはや無縁のものというべきであろう」と結論付けています。個別的か集団的かという以前のところで終わっている話だったのです。
【書籍情報】
2016年3月に日本評論社より発行。著者は浦部法穂神戸大学名誉教授。定価は3,900円+税。
【関連書籍】
伊藤真・森英樹・水島朝穂・浦部法穂『伊藤真が問う 日本国憲法の真意』(日本評論社)
<法学館憲法研究所事務局から>
・この書籍の著者の浦部法穂顧問は当サイトで「大人のための憲法理論入門」を連載しております。
・当サイトの「浦部法穂の憲法時評」のバックナンバーもお読みください。
|