戦後70年となる今年、この間の社会の根幹を形づくってきた日本国憲法を「改正」しようと、国会の憲法審査会での議論が始まりました。自民党は来年にも国会でその発議をすることを検討しています。そこで自民党が憲法「改正」を主張する理由として強調しているのは「押しつけ憲法」論です。先般自民党がつくったマンガにもそれが展開されています。少なくない国民が日本国憲法はアメリカに押しつけられたと思っており、それは自民党が憲法「改正」の理由として強調する背景にあるのでしょう。だとすれば、日本国憲法の制定過程についての国民の正しい理解を広げることはいよいよ重要です。
日本国憲法の制定過程についてはこの本の著者である古関彰一教授が多くの著作で明らかにしてきたことですが、本書は、日本国憲法はアメリカに押しつけられたとする主張はよくよく吟味されるべきことを、新たな歴史的解明もしながら明らかにしています。日本国憲法に「平和」という言葉と考え方がどのような経緯で盛り込まれることになったのかの解明は、本書の見どころです。日本国憲法は9条で戦争放棄・戦力不保持を定めました。その歴史的意味は再確認されるべきです。ただ、「戦争放棄・戦力不保持」と「平和」はイコールではありません。本書には、当時日本国内で平和の構築がどう考えられ議論されていたのか、そもそも平和の構築はどのように実現すべきなのか、などが展開されており、深く考えさせてくれます。当時の沖縄の取り扱いのこと、それをめぐる天皇やマッカーサーの動きなども整理されています。
本書には、日本国憲法制定時の東京帝国大学憲法研究委員会のこと、鈴木安蔵らによる民間研究組織=憲法研究会のこと、1958年に立ち上げられた憲法問題研究会のことなども紹介されており、それも興味深い内容になっています。
【書籍情報】
2015年4月、筑摩書房から「ちくま新書」として刊行。著者は古関彰一・獨協大学名誉教授。定価は860円+税。
<法学館憲法研究所事務局から>
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