安倍政権は、集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を行い、再び戦争のできる国へ向かい、この上なく危険な様相を呈しています。しかし、戦争を体験していない世代の増大に伴い、過酷きわまる沖縄戦の記憶が急速に忘却のかなたに追いやられ、もはやいままでの平和教育などでは救い難い状況を呈するまでになってしまっているようです。そのような状況において、沖縄を再び戦場にしてはならないとの強い思いから、筆者が渾身の力を振絞り、沖縄戦を再度検証したのが本書です。
本書では、新聞をなどの資料から当時の状況や歴史的事実が明らかにされ、客観的な検証がなされており、非武装により数百年もの間、平穏無事に国を保ってきた沖縄が、何をきっかけに武装し、戦争に巻き込まれていくことになったのか、そのときの沖縄の人々の意識はどこに向かっていたのか、沖縄戦の経緯はどのようなものだったのか、そのときの県政はどのようになされ、住民はどのような状況に置かれていたのかなどがよくわかります。
例えば、700人もの住民が集団自決を決行した慶良間諸島では、軍の作戦失敗により、極度の食糧難に陥った上、住民は保有食料の半分を軍に拠出しなければ銃殺に処すと脅迫され、島の草木の採取も、私有家畜の屠殺も、捕虜になることも禁止され、生きる術のない絶望的な状況であったことなど、集団自決の原因が複数あったことも明らかにされています。
本書を読めば、軍隊は軍隊を守り、非戦闘員を犠牲にし、住民を守らないこと。戦争は人間を人間でなくしてしまうこと。戦争では、老人、子供、女性など弱者が一番過酷な運命に陥ること。民衆にとって軍備は無意味であり、戦争は防がなければいけないものであることをつくづく思い知らされるでしょう。
本書は、多大な犠牲と悲しみから受け取った貴重な教訓のバトンそのものです。次の世代に渡していくべき貴重な一冊ではないかと思います。
【書籍情報】
2014年8月15日、高文研から刊行。著者は沖縄国際平和研究所理事長であり元沖縄県知事の大田昌秀さん。定価は1600円+税。
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