憲法の「空語」……? 何それ? どういうこと? って感じですが、読んでみると、なるほどと思わせてくれ、その問題提起は大事だなと思います。
著者である内田樹さんは、憲法には重要な価値が綴られているが、他国の憲法と同様に日本国憲法も制定時にその価値についての広汎な国民的合意があったわけではないこと、その意味では「空語」のようなものであること、アメリカやフランス、あるいはドイツ、イタリアなどでは憲法制定後に人々が憲法の「空語」を充填する努力をすることになったが、日本の場合は敗戦の迎え方の特殊性からそういう努力をする社会状況になかったこと、したがって日本国憲法にその実質を込めていく国民の日常的な実践が重要であること、などを述べています(日本の敗戦の迎え方の特殊性については本書を読んでください)。
内田さんはその上で、最近の日本の為政者が憲法を軽視し、独裁的な振る舞いをしている背景にある、最近の国民意識を分析します。それは「国民国家の株式会社化」という枠組みで説明しており、これも興味深いものです(この点についても本書を読んでください)。
経済至上主義的な社会の動きの危うさ、今日のグローバリズムとナショナリズムの関係などについての分析・問題提起も多くの人を頷かせるものです。
こんにちの憲法状況を憂う人々がその原因と打開策の方向性を突っ込んで考えることができる書だと思います。
【書籍情報】
2014年8月、かもがわ出版から刊行。著者は内田樹・神戸女学院大学教授(フランス現代思想)。定価は本体900円+税。
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