法学館憲法研究所の浦部法穂顧問(=神戸大学名誉教授)の論文です。
「人権」という言葉は英語の"Human Right"の翻訳語です。「権利」は"right"の訳です。これらの言葉へのイメージは日本人と欧米諸国の人々との間ではだいぶ違うようです。英語の"right"には「正しい」という意味が含まれていて、欧米諸国の人々には「正しいこと」=「権利」という観念があるそうです。しかし、日本語の「権利」には「正しい」という意味は含まれていません。加えて「権」という語には権力とか権限など「力」という意味合いが含まれており、そこで日本人には「人権」とか「権利」という言葉に身構えてしまうところがあります。
こうしたことから、日本においては「人権」「権利」は「正しいこと」を内実とするものだということを意識的に強調していくことが必要だと浦部顧問は述べます。「人権」や「権利」を語るとき、日本人はより説得的に語る努力が求められるようです。
この論文で浦部顧問は、「「人権」という理念の根源にあるのが、「個人の尊重」の原理である」と説き、「個人の尊重」の意味と重要性についても解説しています。「個人の尊重」原理は、西欧近代において、それまでの封建社会の身分制秩序に対抗して、自立した人々(=「個人」)が担い手となって確立されてきました。ところが、日本では、戦前は天皇制と「家」制度のもとでの地縁・血縁が重視され、人々はそのような集団に守られて生きることになり、戦後の人々は「会社」という集団に守られて生きてきました。こうした中で、日本では自立した個人があまり育ってきませんでした。浦部顧問は日本での「人権」理念の実現には「個人」の確立が必要だと唱えます。
<次回に続く>
【論文情報】
日本司法書士連合会発行の「月報 司法書士」2010年5月号に収載。
<法学館憲法研究所事務局から>
浦部顧問による連続講座「生活と憲法」(全5回)が5月19日(土)から開講となります。ここでも浦部顧問の憲法学の見地からの日本社会論が語られます。ご案内します。
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