裁判所には違憲審査権がありますが、裁判所が実際に憲法違反という判断をすることはあまりありません。いきおい憲法はあまり頼りにならないと考えられがちです。しかし、憲法に関わる裁判の結果が及ぼした様々な影響、その裁判に関わる当事者や弁護士、裁判官それぞれの、一人の人間の考え方や行動を辿ってみると、憲法が果たしている役割は決して小さくないことがわかります。
本書は憲法裁判を、その具体的な「現場」から考える書で、注目された憲法裁判の当事者などの講演録がおさめられています。
水島朝穂教授(早大)は長沼ナイキ基地訴訟第一審で自衛隊を違憲とし、平和的生存権の権利性を明らかにした福島重雄裁判長の判断を、本人からの聞き取りの結果をふまえて紹介しています。また、その判決がこんにちに至っても関連裁判に大きな影響を及ぼしていることを説得的に伝えるものとなっています。
朝日健二さんは朝日訴訟を提起した朝日茂さんの養子となり、茂さんの死後に裁判を引き継ぎました。健二さんはその経緯と思いとともに朝日訴訟のたたかいの成果と意義を語っています。
新井章弁護士は32年に及んだ教科書検定違憲訴訟(家永訴訟)の経過とそのたたかいの到達点、そしてそこからくる今後の課題を提起しています。原告となった家永三郎教授の思いや決意も紹介しており、心動かされます。
喜田村洋一弁護士は在外邦人選挙権制限違憲訴訟の経過と成果を語っています。当事者の方々の粘り強いたたかいに、人権を守るたたかいへの展望と勇気をもらう内容になっています。
本書の第一章では奥平康弘さん(東大名誉教授)が憲法裁判をめぐる原理的問題と最近の裁判所の動向について語っています。
憲法裁判に関心を寄せる方々にはぜひ読んでいただきたい書です。
【書籍情報】
2011年12月、成文堂から刊行。編者は水島朝穂・早大教授、金澤孝・早大講師。定価は2,100円(本体2,000円)。
* 長沼ナイキ基地訴訟第一審裁判長だった福島重雄さんは、2009年6月22日、法学館憲法研究所の連続講演会「日本国憲法と裁判官」で講演してくださいました。その講演録が『日本国憲法と裁判官』に収載されていますのでご案内します。関連情報。
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