東日本大震災を踏まえ自然災害の被災者支援の法体系の諸々の課題を扱った論稿です。冒頭で、自然災害時においては憲法において保障されている様々な人権が損なわれる事態が発生すること、自立の基盤を失った被災者に対しては憲法の根底的原理である「個人の尊重」原理から「公的支援」「生活配慮」がなされるべきことが提示されています。また、法学者が被災者支援法制の領域への参入に躊躇するあまり、被災者の権利実現が阻害されてはならないことが指摘されています。
各論として、1998年に制定された被災者生活再建支援法は2度の改正を経て改善されてきたが、財源的に巨大災害に対応できないこと、半壊などへの支援がないことなど多くの問題点が例示されています。
災害救助法では、仮設住宅への入居要件の大幅な緩和・入居者への食事提供、帰宅困難者の問題など、「政策提言は枚挙にいとまがない」とされています。
その他、災害弔慰金等法、生活保護法、被災者支援法制を補完する制度(自治体の独自施策、復興基金・義援金など、報道で散見されている諸問題が網羅的に整理されています。
今後の法改正の方向性として、災害救助法による救助は一時的な救助という位置付けだが、大規模災害に対応するためには既存の法制を統合した総合支援法の制定が必要だという指摘は重要でしょう。
【論文情報】「法律時報」2011年11月号所収 執筆は山崎栄一氏(大分大学准教授)
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