自然災害の被災者に対して国はどのような経済的支援をするべきか。どのような基準を設けて、どの程度支援すべきか。難しい問題です。支援の内容も、災害の種類・態様、災害の甚大さ、被災者をとりまく諸条件などによって決まることになるのでしょうが、被災者の中で不公平感が出てくることもあるでしょう。支援すること自体に疑義が出されることもあるでしょう。実に厄介です。いきおい国は、被災者の生活再建も自己責任だとして躊躇しがちになるようです。この考え方は、以前は憲法を理由に正当化されることもありました。「個人の資産形成に公金を使うことは憲法違反だ」というように。国や自治体の財政の厳しさもあり、多くの国民はこうした現状への強い異議申し立てができずにきたのではないでしょうか。
この書は2007年に開催された震災復興フォーラム(主催は兵庫県震災復興研究センター)での、片山善博鳥取県知事(当時)と津久井進弁護士の講演録を収載したものです。片山氏は鳥取県西部地震の際のとりくみの経験を、津久井氏は被災者支援法制の内容と改善課題などを語っています。いずれの講演録も、行政は実際に被災している人々の声に耳を傾け、その生活再建を支援するという基本的目的・使命=ミッションにもとづいて被災者支援をすすめるべきこと、その考え方の基底に日本国憲法の「個人の尊重」の考え方があること、を唱えています。
阪神・淡路大震災後の市民運動で被災者生活再建支援法ができ、以降、自然災害被災者の住宅再建などへの経済的支援が始まりましたが、浦部法穂・神戸大教授(当時)は憲法学の立場でその立法にあたって理論的貢献をしました。その考え方なども紹介されています。"目の前の被災者を救う"立場に徹せよ、というこの書は、東日本大震災の被災者に向き合う議員や政府・自治体関係者には読んでもらいたいし、多くの国民にも広がってほしいと思います。
【書籍情報】
2007年、かもがわ出版から刊行。著者は片山善博鳥取県知事(当時)と津久井進弁護士。定価は本体2,000円+税。
<法学館憲法研究所事務局より>
当研究所は11月3日(木・祝)にシンポジウム「震災と憲法」を開催します。福島第一原発事故は東日本大震災によってもたらされました。震災復興の最大の課題は被災者の生活再建であり、被災者への個人補償は憲法の要請であることなど、大いに語り合いたいと思います。こちら。
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