2010年4月に亡くなった井上ひさしさんは、長年にわたり憲法について語り、2004年6月には「九条の会」の呼びかけ人となり、憲法九条を守る運動に大きな貢献をしました。
本書は1999年8月に行われた井上さんの講座で、『the座 昭和庶民三部作特別号』(こまつ座発行)に掲載されたものの再録です。
イギリスから始まる世界史の憲法と大日本帝国憲法と日本国憲法のそれぞれの成り立ちを語ります。
大日本帝国憲法の成り立ちでは、伊藤博文が憲法制定過程において、宗教が重要な役割を担ってきた欧米を知るにつけ、日本にはそれにふさわしい宗教がないとして、天皇制と神道との結びつきにも否定的であったことが示されています。興味深い指摘です。
戦後、改憲派の主張のひとつに「押し付け憲法論」があります。本書は日本国憲法の成り立ちからそれに反証します。日本国憲法には、イギリス名誉革命からはじまり、アメリカ独立宣言、アメリカ合衆国憲法、フランス人権宣言を経て確立してきた立憲主義の考え方が反映されています。また、第一次世界大戦後は諸国で世界規模の戦争を二度と起こしてはならないという機運が盛り上がり、パリ不戦条約の締結に至った平和主義の思想も引き継がれています。
天皇を利用したアメリカの占領政策と天皇制を維持したい国内勢力の思惑、日本の民間人による新憲法草案の起草など、さまざまな当時の力関係の中で生まれた日本国憲法を、井上さんは「世界史からの贈物」「最高の傑作」と結んでいます。
日本国憲法の成り立ちをわかりやすく説く書です。
【書籍情報】 井上ひさし 岩波書店 2011年6月刊行 定価:本体500円(税別)
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