『長沼事件 平賀書簡 −35年目の証言』についての伊藤所長の推薦文を掲載します。
憲法9条や裁判官の役割・あり方を考える
− 『長沼事件 平賀書簡 −35年目の証言』
伊藤真(法学館憲法研究所所長・伊藤塾塾長)
憲法は国民の権利を守るために国家権力を制限するものです。日本国憲法の前文・第9条は戦争を放棄し、国民が平和のうちに生存する権利があることを確認し、そして国家が戦力を持つことも禁止しました。ところが、日本政府は自衛隊を創設しました。平和のうちに生存する権利を求め、自衛隊は憲法9条違反だと訴えた住民たちの主張に真剣に向き合い、福島重雄裁判長は自衛隊違憲判決を出しました。
その後裁判所は、政治性が高いという理由で自衛隊の合違憲性についての判断をしていませんが、このままで良いわけがありません。自衛隊はいまや海外にまで派遣されるようになっているのです。日本と世界の安全と平和を考える上でも、いまこそ自衛隊というものの存在自体が憲法に照らして検証されなければなりません。
『長沼事件 平賀書簡 −35年目の証言』で福島裁判長は自衛隊違憲判決を出した思いを語ってくださいました。福島裁判長は淡々と仕事をしただけだと語りますが、そこにはプロとしての信念が貫かれています。平賀書簡問題は良心的な裁判官への内外からの「攻撃」が始まっていった重要な契機でした。その状況とそれに立ち向かった若い裁判官たちの思いからも、いまを生きる私たちは多くのことを学び、語り継がねばなりません。
法律家を目指して日々勉強している方々にはぜひ読んで欲しいです。また、多くの市民の皆さんと、憲法9条や裁判官の役割・あり方について語り合う契機にしていきたいと思います。
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法学館憲法研究所は元裁判官の連続講演会を開催します。この講演会では、この本で証言された福島重雄さんも講演されます(6月19日)。また、この本の中の元裁判官座談会で発言している、宮本康昭さんや守屋克彦さん、鈴木經夫さんも講演されます。詳しくはこちら。多くの方々にご参加いただきたいと思います。
(法学館憲法研究所事務局)
【書籍情報】2009年4月、日本評論社から刊行。福島重雄・大出良知・水島朝穂編。定価(本体2700円+税)。
*「平和主義」、「違憲審査権・憲法訴訟」や「司法権の独立」などに関わる文献は当サイトに搭載している「憲法文献データベース」で検索できますので、ご案内します。
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