財界3団体は、昨年までに相次いで憲法9条を含む改憲の意見書を出しました。しかし、財界人の中には、これに批判的な人も少なくありません。著者の品川正治さんもその一人です。氏は、損保会社の社長、会長を経て、経済同友会の副代表幹事・専務理事を務め、現在は同会の終身幹事です。
氏は日中戦争に兵隊として参加し、激戦で敵と味方の地獄絵のような血を見てきました。「日本国憲法の中身である自由、平等は外国の人が血を流してかちとった人類の理念であり日本はこれを教えられた。しかし9条だけは、日本とアジアの人々の血がしみこんでいる。日本だけが世界にさきがけて命がけで作った条文だ」。囚われた中国人女性や高地の攻防戦をめぐる記述など、かつ目させられます。
氏は、「9条を守るというのは『後ろ向き』でなく『現状の変革』である。アメリカの世界戦略さえも変えざるをえないという種類の問題だ。『21世紀型の平和秩序』をリードする方向に向かえば、これほど大きな世界史的な出来事はない。今こそ国民の出番だ」と、極めて積極的です。
主張は、長い間経営者として、経済はもちろん内外の政治、行政、国民生活を広く見てきた経験にも基づいています。その視点は、国家のため、成長のための経済ではなく、国民生活のための経済です。氏は、今の日本が利潤の追求自体を目的にする資本主義に変わってきており、そのために、リストラ、賃金、環境などに関して広範な問題が引き起こされていることに強い警告を発しています。経済界に身を置いてきた著者の、「規制緩和は大企業とアメリカなど外国資本のためのものであり、「権力(規制)からの自由」でなく、大企業の「権力への自由」が真の狙いであることを隠している。」という指摘は注目されます。「日本の経済界のトップが9条改定を考えている理由はアメリカの戦略に乗ったものであり、自動車、情報通信など、アメリカの軍産複合体と非常に近い考え方をしている」という指摘も見逃せません。
本書は、一般市民向けの講演録をまとめたものです。平易な文章で書かれた気概あふれるスケールの大きな構想に接することができるでしょう。
【書籍情報】2006年7月、新日本出版社から刊行。定価1600円+税。
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