「中学生以上のすべての人に向けて」「学校でも家庭でも学べない『いま』を生きていくためのたいせつな知恵」をコンパクトなかたちでまとめたという、「よりみちパン!セ」シリーズの一冊です。著者は、小熊英二氏(慶応大学教員)。4年前刊行された、戦後日本の占領期から70年代までの歴史を詳細に分析した大著「〈民主〉と〈愛国〉―
戦後日本のナショナリズムと公共性」は大変話題になりました。
今回は、「日本という国のしくみや歴史を知り、いまの状態がどうやってできたかを理解する」(「まえがき」より)ために、かなりくだけた口調で語りかけています。
著者は、今の日本を「二つの建国時代」という構成で説明しています。
第1部は明治時代。福沢諭吉の教育論を豊富に引用しながら、教育による建国という観点から明治を解説しています。福沢は、開国した日本の国民に「学問のすすめ」を書きました。近代戦争を勝ち抜くためには、読書きできる学問を身につけた「国民」が必要だという視点からです。そして、「貧にして智あるもの」の不満が政府に向かわないために、欧米列強に範をとり、アジアを侵略して財物を獲得する道を説きます(脱亜論)。
明治の教育は、日本を強くするという国家目的のために強制的な制度として始まりました。よって、国家への忠誠心を育てるために、「修身」と天皇を中心とする歴史教育が殊のほか重視されました。近代国民国家の形成にとって、教育がいかに根幹をなしているかが、わかりやすく書かれています。今、主権者である国民の側は憲法や教育基本法の「改正」に熱心ではないのに、権力を持っている層がなぜあれほど力をいれているのかを理解するための参考にもなるでしょう。「貧しいものに教育を与えることは、利益もあるが、害もある」(福沢)
第二部は「戦後日本の道のりと現代」です。まずは「戦争がもたらした惨禍」から始まります。アジア諸国の被害が生々しく語られています。そして「占領改革と憲法」。今では「押付け」として批判する向きもありますが、日本国憲法特に第9条が、当時の日本にとって最大の誇りとされていたことが述べられ、GHQ案を世論はもちろん保守政治家や財界もけっこう歓迎していた記事などが紹介されています。
強調されているのは、「アメリカの家来になってしまった日本」です。沖縄を「人身御供」にした経緯、アメリカの力でアジア各国に戦後賠償を放棄させた経緯、有事の際自衛隊は米軍の指揮下に入るという密約など、具体的です。
終戦記念日を迎え、これからの日本の国家像を改めて思いめぐらすうえで、かっこうの書籍だと思います。
【書籍情報】2006年3月、理論社から刊行。定価1,200円+税。
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