問題意識を共有する後藤道夫氏(都留文科大学教授・社会哲学)と渡辺治氏(一橋大学教授・政治学)の対談です。戦後の日本の社会や経済の変化、特に最近の「構造改革」と、憲法の「全面改正」の動きとの関係が、ていねいに解説されています。
お二人は、日本では、1970代末ないし80年代初頭までに、国家の行政・財政の総力を、大企業の成長・蓄積を通じた国民経済の成長におく開発主義国家体制ができたと指摘します。この体制の特徴は、人々が大企業を中心とする企業社会の中に組み込まれてきたことです。このシステムは、近代立憲主義憲法を引き継いだヨーロッパ諸国が、財政・行政の中心を、直接に国民生活費を支援する社会費におく福祉国家という仕組みを作ってきたことと対照的です。
しかし、この日本の既存の企業社会統合のシステムも、1990年代からの本格的な経済のグローバリゼーションの中で、経済を回復・成長していくためには限界を生じたとします。基本的には新自由主義の政策を進めるための各種「構造改革」を強力に実行する必要に迫られました。
そのため、2000年頃から、国民生活のナショナルミニマムを保障する日本国憲法の福祉国家理念等が障害になってきました。「構造改革」は、正社員の激減に見られるように、これまでの「まともに働けば普通に生活できる」という常識・国民的合意の崩壊も織り込んでいました。そこで、国民の不満からくる権利主張を、憲法上「公共の秩序」という理論で予め封じておく必要も生じてきました。社会、経済、生活のトータルな激変を生じさせる「構造改革」という大きな枠組みの中で、一人ひとりが改憲問題をどう考えるか、大変参考になる対談だと思われます。
対談は、「小泉『構造改革』と憲法学の課題」の特集の冒頭に組まれており、各論では、日本国憲法が各分野の学者によって議論されています(平和主義、地方自治、経済的自由、労働問題、市民的自由)。当研究所『日本国憲法の多角的検証』に論文「グローバル化のなかの日本経済と改憲の経済的基礎」を執筆していただいた二宮厚美教授は、主に経済学の視点から地方自治における「三位一体改革」を論じています。
雑誌『法律時報6月号』(2006年6月1日発行。日本評論社。税込み1600円)所収
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