法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>

 

映画『ザ・シークレットマン』(原題:MARK FELT THE MAN BROUGHT DOWN THE WHITE HOUSE)


花崎 哲さん(憲法を考える映画の会)
                                                           

 この映画を複雑な気持ちで見ることになりました。
 このごろ、公開される映画に過去のアメリカの政治的なスキャンダルを暴露した者を題材に選ぶものが目立つような気がします。
 この『ザ・シークレットマン』は1972年に起きたウォーターゲート事件の内部告発を、その告発したFBI副長官の側から描いたものです。3月末に公開が予定されている『ペンタゴン・ペーパー(最高機密文書)』は、「ベトナム戦争参戦の嘘」を明らかにする機密文書の公表を巡る新聞社内を描いたもの。昨年の『すべての政府は嘘をつく』もまた権力の虚偽を独立系のジャーナリストが明らかにしていく姿をドキュメンタリーで描いたものでした。
 これらの作品を見るとき、それらの描くのは過去の事件であっても、どうしても今起きている政治事件スキャンダル、虚偽、隠蔽、捏造事件を頭に浮かべてしまいます。

【作品の解説】
 アメリカ合衆国史上初めて任期半ばで辞任に追い込まれたリチャード・ニクソン大統領。その引き金となったウォーターゲート事件の捜査の指揮にあたったFBI副長官マーク・フェルトは、なかなか進展しない捜査の裏にホワイトハウスが捜査妨害をしていることを察知し、事件自体がホワイトハウスの陰謀によるものであることを悟る。大統領に忠実なL・パトリック・グレイFBI長官に捜査協力が期待できない中、フェルトは事件の真相を明るみにするため、大胆な決断をする。(映画.com 『ザ・シークレットマン』解説より)

 映画は、私たちが知り得ない世界、「長年FBIに勤務した、言わば法執行機関の歩兵」だったマーク・フェルトの苦悩とその行動までを描いてサスペンスルフルでとてもおもしろい。
 そこで、この映画の作り手は「何を伝えたかった」のかということになります。
 「権力には屈しない 相手が大統領であっても」と映画のキャッチコピーにあります。
 この映画の中で政治の圧力、つまり政府や政治家からの圧力に屈しなかった彼は正義の人として描かれます。でも、その「正義」とは何を指すのでしょうか?彼の動機はどこにあって、何のために密告し、告発したのでしょうか。
 あくまで法律を守ろうとしたのか、人事への介入や圧力というやり方自体に反発したのか、FBIという組織を守ろうとしたのか、あるいは民主主義自体を守ろうとしたのか。
 残念ながらFBIは言わば公安警察のようなもので、彼らの仕事の多くは、密告やスキャンダルを利用しての政治利用、不当な捜査や逮捕など民主主義を守るためとはほど遠いものであることは映画の中でも説明されています。
 副長官にまで登ってきたマーク・フェルト自身の仕事も同じようなもので、この事件の告発だけが特別なものとは言いがたいものがあります。
 結果的にニクソン大統領の犯罪を暴き、それが国家を揺るがす大事件になったことで、彼の、圧力に負けなかった勇気が評価されますが、彼が一貫してそうした仕事の姿勢を貫いたわけでもありません。
 映画ではその当時のFBIの内部人事、大統領側との関係、彼の家庭の事情など、彼がなぜ内部告発に踏み切ったかについて観客が知りたいと思っていること、納得させるものをいろいろ描いていますが、決め手にはなっていないようです。このあたりが映画を見て複雑な気持ちになるところです。
 
 もちろん個人的な動機ではない。組織を守るため、あるいは独立した組織の存在を守るためにやったということでしょう。それは彼が自分の仕事というものをどうとらえていたかということになります。
 結局、彼は自分の仕事、公務員という自覚を持って、国民のために仕事をしているという視点が十分に描かれていないからモヤモヤしたままの印象が残るのではないでしょうか。

 そうなるとやはり今のわが国の政治状況に当てはめて考えてしまいます。
 森友、加計疑惑の中で、政府からの圧力によって、あるいは政権に対する忖度によって、本来、国民のために動くべき公務員が文書の隠蔽、捏造をし、言い逃れに終始している現状です。
 そこには公務員の自分たちの仕事に対する主体性も、誇りも、モラルの意識がカケラもないようです。
 すべての公務員は憲法を尊重しかつ擁護することを宣誓してその職に就くと聞いています。
 憲法を守ることを通して、そして自分の仕事に対するモラルを守って行動してもらいたい。
 公務員やジャーナリストにある人たちもまた、自分の仕事と引き比べて、自分の仕事とは何かを考えはじめるきっかけとなる映画にしてもらいたいものです。

【スタッフ】
監督:ピーター・ランデズマン
原作:マーク・フェルト ジョン・オコナー
製作:リドリー・スコット ジャンニーナ・スコット マーク・バタン 
アンソニー・カタガス ピーター・ランデズマン スティーヴ・リチャーズ ジェイ・ローチ ゲイリー・ゴーツマン トム・ハンクス
製作総指揮:イェール・バディック デス・ケアリー コリン・ウイルソン 
ピーター・グーパー ジェフリー・ビニクニック・バウアー ディーパック・ネイヤー 
マイケル・シェイファー
音楽:ダニエル・ベンバートン
撮影:アダム・キンメル
編集:タリク・アンウォー
配給:ソニー・ピクチャーズ・クラシックス クロックワークス

【キャスト】
リーアム・ニーソン(マーク・フェルト)
ダイアン・レイン(オードリー・フェルト)
マートン・ソーカス(L・パトリック・グレイ)
アイク・バリンホルツ(アンジェロ・ラノ)
トニー・ゴールドウィン(エド・ミラー )
ブルース・グリーンウッド(サンディ・スミス)
マイケル・C・ホール(ジョン・ディーン)
ジョシュ・ルーカス(チャーリー・ベイツ)
エディ・マーサン(政府機関の男)
マイカ・モンロー(ジョアン・フェルト)
トム・サイズモア(ビル・サリバン)
ジュリアン・モリス(ボブ・ウッドワード)
ノア・ワイリー(スタン・ポッティンガー)
2017年製作 103分 アメリカ映画

公式サイト:http://secretman-movie.com/
予告編:https://www.youtube.com/watch?time_continue=1&v=FFU20AGzJn4
上映の案内:http://secretman-movie.com/info/
新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか、全国上映中



 
                                                           


<「シネマDE憲法」関連情報>

「憲法を知ることは、リアルと普遍の間を何度でも行き来すること——『映画で学ぶ憲法』」志田陽子さん(武蔵野美術大学造形学部教授)



 

[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]