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映画『獄友』


花崎 哲さん(憲法を考える映画の会)
                                                           

 映画の冒頭、快晴の日の千葉刑務所の正門が、正面から映し出されます。いかめしい明治期の権力の象徴を再現したような建物。そのレンガ色の艶やかさがどこか嘘っぽい。誰が何のためにこのような虚飾に満ちた建物にしようと考えたのか。そう、この中に閉じ込められた5人の人生、青春、そして冤罪の事実がこの中にあります。

 彼らは人生のほとんどを獄中で過ごした。いわれのない罪を着せられ、嘘の自白を強要され、獄中で親の死を知らされた。奪われた貴い時間は決して取り戻すことはできない。しかし、絶望の淵にいたはずの彼らは、声をそろえて言うのだ。「不運だったけど、不幸ではない」(「獄友」案内チラシより)

 ほぼ老齢を迎えた彼らは、時々集まっては同窓会のように賑やかな時間をともにします。冗談交じりのように「つかまって良かった」「真人間になれた」などと笑い合う。しかし、彼らの中に彼らがとらえられていた長い時間、自由を奪われ、死との恐怖に苛まれた生々しい時間の記憶があることがすぐにわかります。
 「死刑囚の独房のあった建物の窓からは、午前9時になるときまって『おはよう』と呼び合う声が聞こえてくる。午前9時を過ぎればその日の死刑執行はない。それほど死刑囚は毎日毎日、死の恐怖にさらされて時間を過ごしている。」そうした非人間的な恐怖の時間に長く、48年もさらされ、獄友の仲間のひとり、袴田さんの精神はある部分壊れてしまったかのようです。
 獄友仲間をつないで幹事役をしているような桜井さんの奥さんが語ります。結婚するまでは陽気な明るい人だと思っていたのが、「心と体がバラバラになってしまう。窓から飛び出そうとする。『飛び出さないようにしっかりつかんでてくれ』」と奥さんに頼み込む。
 その経験をしていないものにとっては、想像を絶する屈辱と絶望の日々が果てしなく続いていたことが見えてきます。明るく振る舞う彼らの心の中にそうしたことがしまい込まれていることがわかります。
 この人たちにいったい何があったのだろうと考えざるを得ない。冤罪は、生きる権利、人格さえもここまで破壊していることがわかります。

 冤罪だった彼らは、刑務所の中で、最もつらかったことに親の死に目に会えなかったことをあげます。とくに母親の死に目。「おふくろは特別だ」。
 彼らのもう会えない母親に寄せる思い、それは彼らの思いが刑務所に入った時間で止まってしまっているようにも感じられます。子どもが母親にすがるようなものが彼らの中にそのままになっています。彼らの時間は解決されないまま、そして気持ちはいやされないまま止まっていることを感じさせます。
 袴田さんが自分を23歳、と繰り返すように、止まっている時間、自分の人生の時間を強制的に止められ、閉ざされ、彼らは今なお青春の中にもだえているようでもあります。
 ふと、子どもを冤罪で殺人犯に仕立てられ、あるいは死刑囚にさせられてしまった親の気持ち、いままで考えもしなかったそうした気持ちを想像してみました。彼らの親はどのような気持ちで子ども達と別れ、死んでいったのか。そこにも冤罪を生み出した取り返しのつかない権力の罪を感じました。

 金聖雄監督のこれまでの「冤罪シリーズ」の『SAYAMA 見えない手錠をはずすまで』、『袴田巌 夢の間の世の中』を見てきました。どちらも明るくたくましく生きるか彼らの日常を追っています。
 しかし前作までと今度の作品の間の時間に「共謀罪法が成立している」ということがあると気づきました。こうした数多くの冤罪を犯し、罪のない人の人格を破壊した罪を、権力はいったいどのように責任をとったのでしょうか。それにもかかわらず、さらに権力は、共謀罪法を作って、人々の自由を取り締まる捜査や取調べを強化する道を開き、ある意味、冤罪の温床を作り出すことの危険性を拡げようとしている。それを推進している側には反省のかけらも感じません。

 狭山事件の死刑囚だった石川さんは、無罪が認められるまで親の墓参りに行かないと決意しています。そう彼は1964年一審死刑、1977年無期懲役確定。その後、1994年仮釈放され再審請求中です。まだその無実は認められず、無実を訴え続けている立場なのです。
 仲間とはワイワイやっていても、トレーニングで走っているときの表情、「墓参りに行かない」と言ったときの表情の厳しさが、彼がまだ背負い続けているもの、それを晴らすために訴え続けている者のもつ果てしない重さを感じます。
 死刑囚としての長い苦しみと恐怖から精神のある部分を壊された袴田さんもまた、家の中をひたすら歩き回る「日課」から少しずつ外に出るようになりました。その最新の姿、この映画のラストで、ファイティング・スタイルをとりながらのランニングしている姿をとらえます。
 彼らの闘いはこれからだ、ということを感じさせます。

【スタッフ】
プロデューサー:陣内直行
監督:金聖雄
カメラマン:池田俊己
音楽&ピアノ/谷川賢作
録音/吉田茂一 製作:キムーンフィルム
2017年作品/日本映画/100分
【出演】
獄中29年「布川事件」桜井昌司
獄中29年「布川事件」杉山卓男
獄中17年6ヶ月「足利事件」菅家利和
獄中31年7ヶ月「狭山事件」石川一雄
獄中48年「袴田事件」袴田巖
上映情報:2018年3月24日?ポレポレ東中野ほか全国上映
公式ホームページ:http://www.gokutomo-movie.com/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=QljzGBTQ9rI



 
                                                           


<「シネマDE憲法」関連情報>

「憲法を知ることは、リアルと普遍の間を何度でも行き来すること——『映画で学ぶ憲法』」志田陽子さん(武蔵野美術大学造形学部教授)



 

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