日本国憲法の成立過程を描いた映画は、さまざまな側面から作られています。
私たちがこれまで上映会をしてきたものの中でも『戦争をしない国日本』『映画 日本国憲法』『日本国憲法誕生』『日本の青空』『ベアテの贈りもの』『太陽と月と』、最近の作品では『不思議のクニの憲法』などがあります。
いずれも改憲を唱える側の「押しつけられた憲法」という主張に対して、日本人の手によって、当時の日本人の合意のもとで作られた憲法であることを伝えたいという気持ちがこもっている作品です。
このETV特集『焼け跡から生まれた憲法草案』も、そうした一群の日本国憲法成立過程を描いた作品の中の一つです。ちょうど同じ時期にできたNHKスペシャル『日本国憲法誕生』と対をなすように作られました。
『日本国憲法誕生』が主にGHQ内部の動きや、日本政府側の憲法をめぐっての交渉を中心に描いているのに対して、『焼け跡から生まれた憲法草案』は、在野の鈴木安蔵ら憲法研究会のメンバーが自主的に作った憲法草案に焦点を当てています。
これら日本国憲法の成立過程とそれに携わった人々を描いた映画を見て、私が感じるのは、それらの人々に通じる「善意」のようなものと、理想に燃えた若々しさです。
憲法研究会の鈴木安蔵にしろ、GHQ草案を作ったE・ハーバード・ノーマンやベアテ・シロタ・ゴードンにしても、今までずっと心に持ち続けた強い平和や人権への意志を、憲法という形で新しい国の出発に、いや平和をめざす新しい世界の構築に活かしていくのだという希望と熱意が伝わってきます。
彼らのそうした熱意は、悲惨な戦争を経て、「もうこんな戦争は二度と繰り返すまい」という気持ちだったと思います。戦時下という名の下に、自由や権利を抑圧していった権力に対して、「もうそんなことは二度とさせないぞ」という強い意志が込められていたのだと思います。
それはまた大多数の国民の、そして第二次世界大戦を経験した世界の人々の共通の気持ちであったことが、これらの作品からそれぞれ強く感じられます。
憲法研究会の鈴木安蔵らは戦争中にことごとく捕らえられ、獄中に入れられました。だからこそ自由、権利、人権、民主主義の持つ力をこの憲法に託したのだと思います。
今年の11月3日は日本国憲法公布70年目の日です。
私たちは、いま、この憲法公布の日から、来年(2017年)の5月3日の憲法施行70年の日までの間に、全国各地、各地域で今まで見てきた「憲法の映画」を、上映したいと計画しています。
憲法公布から施行までの70年前のその半年間は、「日本国憲法がどのような国のあり方を、社会のあり方をめざしているか」を国民が理解し、自分たちのものにするために設けられた半年間だったからです。
私たちも、憲法について考えるこうした映画を通して、もう一度その追体験をしたいと思います。いろいろな策動をはらんだ改憲論議が続きそうなこれから、日本国憲法の成立の原点からこの憲法をとらえ、憲法が生まれた歴史を知り、あらためて自分たちのものにしていきたいと思います。
憲法を考える映画の会では、いっしょに上映会や学習会を各地で開いてくれる人を募っています。
【『焼け跡から生まれた憲法草案』】制作スタッフ】
資料提供:原秀成 江口中四一 トルーマンライブラリー アメリカ国立公文書館
カナダ大使館 フレズノ郡弁護士協会 国立公文書館 国立国会図書館 国際子ども図書館 朝日新聞社 毎日新聞社 中日新聞東京本社 東京大学総合図書館
東京大学法学部法制史資料室 法政大学大原社会問題研究所 広島大学文書館
高知市立自由民権記念館 高知県立図書館 静岡大学付属図書館
語り:長谷川勝彦
出演:古関彰一 森田美由紀 大塚洋 千田隼生 津野哲郎 天現寺竜 原田文明 本多晋 若松武史 エルダー・コーへ マーコフ・ダニエル ビンセント・ベリー
クリスト・ピエトロ リカヤ・スプーナー
声の出演:81プロデュース
撮影:浅野康次郎 音声:稲垣従道 照明:寺田博 美術:太田礼二
映像技術:松島史明 リサーチャー:岩本善政 佐古純一郎 コーディネーター:野口修司
音響効果:吉田隆一 編集:吉岡雅春 青木孝文
ディレクター:山口智也 制作統括:塩田純
放送:2007年2月10日
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