林えいだいさん(82)は福岡県で活動を続ける記録作家です。
筑豊炭鉱についてのものを中心に、執筆したルポルタージュはすでに50冊以上にのぼります。
朝鮮人強制連行、戦争と平和の問題が、彼の「記録」の題材です。
林えいだいさんの話から、あるいはその書かれたものの朗読から、「知らせなくてはならない」「残さなくてはいけない」「明らかにしなければならない」、死ぬまでそれを続けなければという執念が強く伝わってきます。
以前に見たドキュメンタリー映画『ニッポンの嘘』で描かれた福島菊次郎さんの生き方、『死んどるヒマはない』の益永スミコさんの伝えようとする執念に通じるところがあります。圧倒されます。
戦争中の1943年、神主だった林えいだいさんのお父さんは、強制連行によって朝鮮から連れて来られ、筑豊炭鉱で過酷に働かされていた朝鮮人労働者をかくまい、逃がしてあげたことで、特高警察に拷問され、殺されます。
「権力によって命を奪われた」、それが林さんのその後の記録作家としての人生の原点になっています。
「歴史が権力者によって都合良く作り変えられる」、そのことへの憤りが、その後の「残さなくてはいけない」「明らかにしなければならない」と、隠され、知らさないようにしてきたものを明らかにし、記録していくことへの執念になります。
今、林さんは、戦争末期の1945年5月に起きた、特攻爆撃機放火事件の朝鮮人特攻飛行士の冤罪処刑について取り組んでいます。「ほんとうに許されない。もう、怒りで腸が煮えくりかえること、ありますよ」。それは映画を見るものにとっても、なんてひどいことが行われたのか、そしてこのようなひどいことがたくさん繰り返されてきたに違いない、という気持ちにさせます。
そうしたことを知らないで平気でいたことが罪にさえ感じます。
「日本の責任において戦争しながら,そして朝鮮人の朝鮮民族の一人である山本伍長をなぜ、日本人の手で殺さなくちゃいけなかったのか」
日本、日本人が、朝鮮人はじめ侵略した国の人に対して二重三重に犯してきたこと、その責任を「なかったことしよう」とか、責任とは全く反対の意味で「いつまでも子孫に残してはならない」とするのが今の権力にある人たちのやっていることです。
どうしてそれを覆い隠すのか、覆い隠さなくてはならない不都合のある人が、今もこの国の権力を握りつづけているということなのでしょう。そうした権力者は今また、この国で何をしようとしているのでしょうか。同じことを繰り返そうとしているのではないでしょうか。
林えいだいさんが「明らかにしようとしている」ものを知れば知るほどそうしたことを、今、考えなければならないと思います。
がんに冒され、苦しい体を押して、なお執念でもって書き遺さなければならない、と「記録作家」を続けている林えいだいさんに、それを教えてくれたことを感謝するとともに、それを受け取った私たちはどうしていくのかが、これからの自分たちの問題だと思います。
戦後、朝鮮に帰る人がお世話になったお父さんのところにどうしてもお礼に寄りたいと10円札を持ってきたそうです。林さんはそれを大切にしています。「僕にとっては、このお金というのは唯一の遺産なんですよ」。その遺産に込められたものが林さんの生涯の仕事をひとつひとつ実現してきたのだと思います。
この映画は、RKB毎日放送がテレビドキュメンタリー番組として放送されたものがもとになっています。普通そうした番組は深夜に一度放送されただけでアーカイブ入りになって日の目を見ないと監督も映画の後、話されてました。地方局の意欲的なドキュメンタリー番組がこうした形で映画になる機会が増えているようでありがたい限りです。
より多くの人が、こうした映画を見られるようになることを通して、作り手が伝えたいと強く思っている番組や作品が作り続けられていくように、私たちも上映の機会を作り、拡げていきたいと思っています。
【制作スタッフ】
監督:西島真司
出演:林えいだい、他
朗読:田中泯
2016年・日本映画・110分・ドキュメンタリー
【予告編】
【これからの上映予定】
会場:北九州市環境ミュージアム(093-663-6751)
会期:7月29日〜31日
時間: 午後1時半、3時45分、6時の3回。
各回先着60人。
料金: 前売り一般1000円、大学・高校生800円。当日は一般のみ1200円。
【上映のお問い合わせ】
株式会社グループ現代
電話:090-5755-1569 FAX:03-3341-2874
E-mail:mamimovie@yahoo.co.jp
URL:http://www.g-gendai.co.jp/
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