戦争や災害などの大惨事につけこんで実施される過激な市場原理主義改革=「ショック・ドクトリン」。
「惨事便乗型資本主義」とも言われています。
その源には、政府による市場介入を否定し、福祉国家の解体を唱えたシカゴ学派のミルトン・フリードマンらの提唱した新自由主義(ネオリベラリズム)があります。その思想がいかに具体的な政策として世界を席巻していったか、また、徹底した市場原理主義の推進が世界に何をもたらしたのかを明らかにしていくのがこの作品です。
この映画では、まずシカゴ学派以来の「過激な市場原理主義改革」が、1970年代から2000年代に至る世界各地の事件や政治情勢の中でどのように進められていったかを描いています。
クーデターによるチリのアジェンデ政権の崩壊、フォークランド紛争を利用したサッチャー政権の政策、ソ連の崩壊、そしてアメリカの起こした対イラク戦争、9.11以降のアフガニスタン介入や「テロとの戦い」。
戦争や自然災害、テロ、あるいは政治不安、インフレなど利用して市場原理主義が推進されてきたことがひとつひとつ描かれていきます。
映画の描き方としても学ぶことが多くあります。
もともと形が見えない経済の動きを、戦争や事件、政治的事象の映像やニュースフィルムから探し出し、画の無いものは世界各地に取材行く手法です。
ナオミ・クラインの唱えるストーリーを軸にしているとはいえ、私たちの頭の中に断片的に残っているニュース映像の裏でどのような力が働いていたか、それらはどのようにつながっているか、ひとつひとつ自分が知らないできたことが種明かしされ、見る者をぐいぐいと引っ張っていきます。
そうした一連の全く別々で起きていると思われていた歴史的事件が、資本家や利益を求める株主たちが望むものを実現するために、巧妙に仕組まれたものであることを知ると驚きとともに、自分たち知っていると思ったことがメディアによって知らされたほんの表面の事象であることを、あらためて思い知らされます。
そして、いま1%が99%を支配しているという世界で展開されている格差拡大の動きがこうした新自由主義の政策にもとがあることを知り、謎が解けた気持ちになります。
こうした災害、戦争、テロ、インフレ、といった人々を不安に陥れる、また想像するだけで不安に駆られる惨事に便乗しての強引な政治改革の進め方は、さらに世界各地で広がっているといえます。
我が国の安倍政権においても、同じような形で惨事便乗型、あるいは惨事をあおって強引に管理を強め、権力を強めようとするかの政策がとられようとしていることに気がつきます。
秘密保護法、集団的自衛権を実行するための安全保障法制がそうですし、政権与党が憲法改正の第一歩として進めようとしている「緊急事態条項」の問題も同じ根があると考えられます。
この映画を先日行われていた憲法映画祭の中で上映しましたが、「知らなかった、そのこと自体がショックだった。という声が聞かれました。また、ぼんやりと「戦争を起こす者は経済だ」とは聞いていたが、最近の世界の動きの中でこれほどにまで経済の動きや政策に結びついているとは驚きだったという感想が寄せられました。
私たちは今こそ、この映画を見直して、今、強引に進められようとしている政策に対して考え方を明確にしていきたいと思います。今の政治の動きに疑問を持っている人、もっていない人も含め、考えていくことに役立てていける映画だと思います。
公式ホームページ
監督:マイケル・ウィンターボトム/マット・ホワイトクロス
制作:アレックス・クック/アンドリュー・イートン/アビ・ルイス
原作:ナオミ・クライン
配給:ビデオプレス(03-3530-8588)
*貸出上映50人以下の場合30000円 50人以上 50000円
DVD販売:旬報社(03-3943-9911)解説ブックレット付き3360円
イギリス映画 2009年 82分
|