イタリアですべての精神病院を違法とする「バザーリア法」の生みの親となった精神科医フランコ・バザーリアの体験に基づく映画です。
1961年の北イタリアのある精神病院に一人の用務員が洗濯物を集めながら、施設内の様々な暴力的な処遇をひそかに観察しています。電気ショック、冷水シャワー、拘束服、薬の投与過剰などで死亡した遺体の処理‥‥。彼は新しく赴任してきた院長でした。治療というよりも収容所のような運営にショックを受けます。「心の病はあらゆる病気と同じように尊重されるべきだ。」「心を病んでいても人間なんだ。」という信念で強いイニシアティブを発揮し次々と改革。
まずはそれまで閉ざしていた病院の扉、出入り口の開放です。患者たちは広い緑の木陰で歌を歌い踊り回ります。次の開放は、病院と外部を隔てている厚いレンガの壁を壊すことでした。その過程で病院にしがみつく人もいます。自殺者も出ます。しかし院長はひるみませんでした。予想したリスクなのでしょう。ドラマは骨太に展開します。
「ふたつめの影」とは、精神病院という枠組みに適応するために患者自身が作り出したものでもありました。自由を阻む敵は精神病院のみではなく、患者の内部にも存在しました。それゆえ、院長は患者にツルハシなどを与え壁を自分たちで壊させたのでした。
この映画は、社会が精神に病気がある人たちを尊厳ある存在として受け入れるべきことを伝えるとともに、様々な態様で疎外された人たちは自らの行動で状況を変革していかなければならないことも伝えていると思われます。行動することは尊厳さの証明かもしれません。まさに憲法の核心に触れる映画です。
【映画情報】
【製作】2000年 イタリア
【時間】84分
【監督・脚本】シルヴァーノ・アゴスティ
【出演】レーモ・ジローネ/旧精神病院入院患者約200名
* 現在、東京・吉祥寺バウスシアターで上映中です。 |