07年2月から3月にかけてNHKで放映されたドラマ「ハゲタカ」は、当時のグローバルな経済社会の深部を暴く硬派のドラマとして社会に衝撃を与えました。1998年、ニューヨークでファンド・マネージャーとして腕を鍛えた鷲津政彦(大森南朋)が、アメリカ企業のために“日本の買い叩き”に5年振りに帰国して企業買収に暗躍する、経済ドラマであると同時に骨太の人間ドラマでした。
今回、このドラマを演出した大友啓史氏が、その後の世界の金融危機勃発を背景に、日米中にまたがる「今」の壮絶な企業買収戦争を、同じ題名で映画化しました。テレビドラマに登場したキャストが再び多数出演しています。
日本企業の買い叩きにあけくれながらも、日本市場に絶望した鷲津政彦(大森南朋)はのんびりと海外生活を送っていました。ある日、かつての盟友・柴野(柴田恭平)が、彼が役員を務める日本を代表する自動車メーカー「アカマ自動車」を救済して欲しいと懇願にやって来ます。「アカマ」は、謎の中国系巨大ファンドであるブルー・ウォール・パートナーズによって買収される危機に直面しているのでした。鷲津は重い腰を上げて、「アカマ」のホワイトナイト(敵対的買収を仕掛けられた対象会社を、買収者に対抗して友好的に買収する第三の会社)として動き出します。ブルー・ウォール・パートナーズを率いるのは、残留日本人孤児3世を名乗る劉一華(玉山鉄二)。調べていくと、その資金源は、中国の政府系投資ファンドでした。鷲津はオイルマネーの資金を求めてドバイへ。劉は、「アカマ」の派遣工として3年を過ぎても違法に使用されている守山に働きかけて、「アカマ」で使い捨てにされている非正規労働者にデモや集会を開催させようとします。買収工作の一貫として「アカマ」に打撃を与えるためです。
経済のグローバル化、外資の国内市場参入は、日本社会に大きな変化をもたらし、私たちの労働や生活を直撃しました。映画は、僅か1年足らず前の昨年9月のリーマン・ショックや、サブプライムローン問題を織り込んで、国境を越えた兆の単位の買収戦争に肉薄します。ファンドや企業のトップたちの生死を賭けた頭脳戦、翻弄される非正規労働者の生々しい生き様は“今”をシャープに映し出しています。
映画の底に流れるのは、表面的には“敵”である相手が、互いの相似点に気付いて共鳴し、共感していく過程です。もう一つは、お互いが巨大マネーの犠牲になっていく姿です。監督は言っています。「他者によって共食いさせられている日本人というのは、戦後の日本人だった。そこに大きな変化が起きたのがリーマン・ショックです。これによって戦後の日本のバックボーンだった、アメリカという価値観が少なくとも経済的には崩れた。そういう動きの中で、鷲津が自分に叩き込まれたアメリカのグローバリズムを捨てるドラマにもなっている」。
金融資本主義のあり方をどう考えるのか、人間の主体性を取り戻すにはどう生きたらいいのか、私たちが避けて通れない重大な課題を提供している映画です。
【映画情報】
【製作】2009年 日本
【時間】134分
【監督】大友啓史
【出演】大森南朋/玉山鉄二/柴田恭平/栗山千明/高良健吾/遠藤憲一/松田龍平/中尾彬
【上映館】全国東宝系で公開中
公式サイト
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