鹿児島地方裁判所の「大美島」(「奄美大島に良く似たドラマ上の設定」支部長として大阪から転勤してきた、30代の裁判官三沢恭介(西島秀俊)が主人公の、連続5回に渡るドラマです。大阪では、激務で家族もほったらかしという、よくありがちなエリート裁判官でした。
法曹の中で、裁判官が主人公になるドラマは、93年に放送された「家裁の人」がある程度でしょう。そもそも、裁判官に限らず1人のキャリア公務員特有の仕事ぶりや生き様を追った連ドラもあまりないのではないでしょうか。その方々の政治や社会に対する影響力の大きさを考えると、これはとても不自然なことだと思います。裁判官との活発なコミュニケーションを必要とする裁判員制度の開始もあと1年半先に迫った現在、裁判官の実像を知る―あるいは、あるべき裁判官像を考える―ためにも、タイムリーな企画です。
支部長と言っても、裁判官は1人で、民事、刑事から少年事件まで、一切を担当し、大変です。そんな支部長を、家庭裁判所調査官など、裁判所内のさまざまな職種の人たちが補佐します。視聴者は、おかげでいろいろな種類の事件や職種のことなどを分かりやすく知ることができます。
このドラマの大きな見所は、事件の当事者たちの生活実態を描写しているところでしょう。しかも、現代を生きる庶民のそれを。前回は、離婚して島にやってきた母とその息子の事件(少年事件)でした。離婚、そして二重労働という今や普通に見られる家庭状況における子育て、犯罪、教育という、社会全体で考えなければならない事柄が、法廷外のできごとを含めてよく描かれていたと思います。三沢判事は、少年の全体像を理解しようと必死になります。そして自らも成長してゆきます。
次回は、27日(土)に第3回が放送されます。長年の介護の果てに、妻(中原ひとみ)が寝たきりの夫を殺してしまう事件です。これもすぐれて現代的なテーマです。
三沢判事は事件にどう向き合うのでしょうか。
日本の裁判官は市民社会から隔絶されていると思います。そのことが、違憲判決の異常に少ない、歪んだ司法を生んでいる大きな原因になっています。このドラマは、市民の実像に接近しようとする裁判官を描いている意味でも貴重です。
澄み切ったコバルトブルーの海。豊かなマングローブの森。おおらかな島の人たち。視る人を癒やしてくれる風景です。
そんな庶民と自然の環境の中で、三沢判事も次第に妻や1人娘(小学生)との豊かな家庭生活を作ってゆきます。人間らしい働き方の中味や家庭のあり方という普遍的な問題にも、思いをめぐらすことができる番組だと思います。
【放送】NHK総合 毎週土曜日午後9:00〜9:58 10月27日(土)は第3回目
【脚本】中園健司
【出演】西島秀俊/戸田菜穂/寺田農/国生さゆり/浅野温子/的場浩司/中原ひとみ
公式HP
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