「戦争ではなくアートを創りだす」をモットーに、「心臓が止まるまで絵を描き続ける」という、不屈で天衣無縫な1920年生まれの日系アメリカ人画家ジミー・ツトム・ミリキタニ(三力谷)を追ったドキュメンタリーです。
2001年9月11日、世界トレードセンターが崩壊し騒然としたニューヨークの路上で、ミリキタニ氏は、いつもと同じように平然と絵を描いていました。特別なことはなにも起きてないよ、というふうに。彼にとって、それはいつもの風景だったのです。
カリフォルニアに生まれたミリキタニは、母の故郷である広島で教育を受けます。しかし、兵学校への入学を拒否し、「自由の国」で絵画を通じて日米の掛け橋になろうと夢を抱き、アメリカに帰国します。そこに勃発した第二次世界大戦。彼は日系人強制収容所に送られ、アメリカに抗議して市民権を捨てました。戦争が終わりほっとしたのもつかの間、アメリカ政府は農場での強制労働を命じます。生活、財産、画家としての未来を失い、故郷の広島では原爆で多くの家族や友人たちが犠牲になっていました。
以来、差別的なアメリカやアメリカ人たちに反抗する反骨の人生が始まりました。色鉛筆やクレヨンなどで描いた絵を売りながら細々とホームレスの生活を続けます。
そして2001年。 彼の絵を買おうとした若い女性監督リンダ・ハッテンドーフは、絵の代金の代わりに自分を撮影してくれと頼まれ、彼の数奇な人生に関心を持ち始めます。9、11で行き場を失った彼を、リンダは自分のアパートに引き取ります。傍若無人とも言える彼を暖かく世話するリンダ。リンダはこの時のことを、「9,11以降全てが変わりました。戦争、恐怖、憎悪が蔓延する中で、私は何かポジティブなことをしたいと思いました」「彼の失った60年間分の信頼を修復したかったのです」。映画の監督が、いつの間にか映画の登場人物になります。
彼の絵の価値を認め、創作活動を支える親切な人たちに接して、やがて、彼の心は開き笑顔を取り戻してゆきます。
アメリカでの差別や広島の街の破壊への怒りを描く絵は才気に走り、たぎる思いをたくましい筆致で語っています。題名は、彼が猫の絵が好きだったこともありますが、強制収容所で獄死した少年に、生前猫の絵を描くことをせがまれたことも大いに影響しています。
理不尽な時代の波の中で少数派を誠実に見つめる不屈の精神に満ちた一人の画家の孤独と、晩年の彼をとりまく人々の暖かさの両面を描いたヒューマンな作品です。感動的なラストシーンが待っています。
【映画情報】
製作:2006年 アメリカ
原題:THE CATS OF MIRIKITANI
監督: リンダ・ハッテンドーフ
時間:74分
出演もしくは声の出演 ジミー・ツトム・ミリキタニ/ ジャニス・ミリキタニ /ロジャー・シモムラ
上映館:渋谷・ユーロスペース、愛知・シネマスコーレで上映中 後全国順次公開
公式サイト
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