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裁判員制度の9年間を考える〜裁判員経験者からの提言 

2018年10月22日



高橋博信さん(裁判員経験者)

 私は、2011年6月(東日本大震災の発生した年)に東京地裁・立川支部において強盗致傷罪の裁判員裁判を務めました。

 裁判員裁判がスタートした2009年前後に本屋に並んでいた書籍の殆どは、司法研究者・弁護士先生が刊行した教科書的な「裁判員裁判のテニヲハ」とか「素人がひとを裁けるか」「殺人者を裁けるか」等の一般市民が司法に介入するのを拒否する内容の書籍が並んでおり、一般市民を排除したい感の書籍が多く見受けられました。
 確かに一般市民が「他人を裁く」文化はないとは云え、ここまでなら許せるとか、好き嫌い・忖度等な「受・排」は、一般市民生活の延長線上にある倫理・常識・マナーの文化の中で培われているはずですので、司法関係者の様なホワイトカラー以外の視線が入ることで日本の司法が大きく変る期待感があったものと思います。

<事件概要>
 東京郊外でホームレス生活をしていた被告人(45歳)は食べ物に困って、早朝・市内のスーパー入口前に届けられたパンを3日に1回ほど常習的に繰り返し盗みながら生きていた。
 2011年2月の早朝、いつものようにパンを物色し、バッグに詰めていたところ被害者である清掃作業員の方に見つかり着衣を掴まれた。
 掴まれた手を振り解いて逃げようとしたが振り解くことが出来ずに、被害者に頭突きや殴打で30分ほど暴行を加え、挙句の果てには馬乗りになり護身用に持っていたカッターナイフを顔に近づけ「死にたくないだろう、手を離せ」と脅して手を離させた。
 現場から逃走中に、返り血で真っ赤になっている事に気が付き「これは逃げ切れない」と悟り駅前の交番に出頭(自首)盗ったパンは約千円、所持金は約60円。

 被告自ら出頭しており、量刑を決める裁判で争点は「粗暴犯か否か」でした。
 「被害金額・怪我状況・食うに困っての犯行」を考慮すると情状酌量の余地はありましたが、被告は前科2犯の執行猶予中に犯した事件でしたので、判決は懲役5年(求刑7年)となり、被告の方が50歳になる時期です。
 あとから振り返ると被告人が50歳を迎える前に出所出来るよう、一年・半年単位ではなく56ヵ月とか月単位の量刑こそ民意を反映した判決を出しても良かったかなと考えており「裁判体の総意で40歳代で出所できるように計算した」と説諭すれば再犯防止に繋がるのではないかと考えています。

 裁判員裁判が終わって、会社の同僚等に経験談を話そうとするも「守秘義務違反では?」として話しを遮られて説明する機会も場も当時はありませんでした。
 2013年に行われた裁判員経験者の意見交換会に参加してから、裁判所自体が意見交換会を通して情報を求めていることを知り、裁判員の体験談を聴く・話す場を探して下記団体の活動に参加するようになりました。

(1) 裁判員経験者ネットワーク(弁護士・臨床心理士が立会いの下に行う裁判員経験者交流会)
(2) 裁判員ネット(大城聡弁護士主催の市民交流会)
(3) 裁判員ラウンジ(専修大学・飯教授主催のオープンキャンパス的な市民交流会)
(4) 裁判員ACT(大阪ボランティア協会主催の裁判への市民参加を進める市民活動)
(5) LJCC(裁判員経験者交流グループ)
(6) ERCJ(刑事および少年司法に関する教育・学術研究活動)
(7) 守秘義務市民の会(牧野茂弁護士主催、現行の司法問題について情報交換会)
(8) 陪審裁判を考える会(市民参加型の司法制度について情報交換会)
(9) 公開シンポジウム(2017年9月/2017年12月、裁判員ネットワーク主催で青山学院大学にて開催(2017年12月のシンポジウム内容は「取り調べのビデオ録画(成文堂)」を ご参照下さい)
(10)司法シンポジウム(2018年9月29日、日本弁護士連合会主催)にパネリストとして登壇

 参加した中でも特に、裁判員ラウンジは「誰でも参加できる裁判員経験者や弁護士との語らいのスペース」として年に4回開催されており、裁判員制度の概要説明を行ってから、裁判員経験者(時には現役の裁判官/書記官)の話しをインタビュー形式で行われて参加者全員が質問する事も出来るので市民の方々と情報共有できる点が素晴らしいと思います。
 参加者の中には、裁判員候補者通知が届いたという女性の方が「裁判員経験者の経験談を聴きたい」として参加されていたり、最近では都立高校の課題研究テーマ「裁判員制度について」の女子高生の方が「学校の先生に裁判員裁判について話しを聞いても要領を得られなかった」として、裁判員ラウンジに参加されて真剣に体験談を聴いて、びっしりとメモを取っていました。
 後日談ですが、彼女は高校を卒業して法学部に進学しています。

<裁判員経験者目線の提言>
(1) 裁判員制度が来年10年目を迎えるに当たり、各地方裁判所に裁判員経験者を招いて懇談会OB・OG会を開催して欲しい。

(2) そろそろ選任手続きへの無断欠席者への罰則を検討すべき時期ではないか。
裁判員制度は、市民の義務的なものであり辞退率が7割を超えて、尚上昇中に歯止めをかける為にも検討だけは進めておくべき。

(3) 非協力的な仕事先へは罰則規定を設ける。
裁判員候補者が理由なく選任手続きを欠席した場合の罰則規定があるのですからそれに加えて、裁判所と労働基準監督署の連名で、裁判員の仕事先へ協力を求める書面を 送るべきです。
(不当な減給・解雇等が行われた場合、仕事先へ罰則・罰金を科す)
   その上で、裁判が終了後には仕事先へ感謝状を贈る。

(4) 裁判員選任手続きは、ビデオリンク等を活用して裁判員候補者の居住先付近の簡易・家庭裁判所(出張所)等で行える様にすべきではないか。
飛行機や船でしか行き来できない島嶼部/北海道の様な遠隔地の多い地区への対応案であり、例えば、東京地裁本庁と同時に八丈島の簡易裁判所で選任手続きを行い、選 任されたら本庁に出向く形であれば無駄が無く、参加者上昇も見込めるのではないか。

(5) 地方裁判所主催で選任前の裁判員候補者に対して「裁判員経験者の経験談を聴ける会」等を企画しては如何か?
裁判員制度の広報活動の一環として、裁判員経験者(OB&OG)に協力を求めて実施。

<裁判員裁判を含めて裁判全体についての提言>
(1) 法廷のパブリックビューイングを実現すべきではないか。
抽選が見込まれる裁判で、抽選漏れの傍聴希望者は別法廷で傍聴可能とする。
(傍聴券のダフ屋対策にもなるものと思われる)

(2) 刑事事件の裁判だけではなく、民事・行政裁判にも裁判員裁判を広げるべき。
(裁判の活性化を期待)

(3) 一審だけではなく、高等裁判所・最高裁判所へも裁判員裁判制度を適用すべき。
(裁判の活性化を期待)

最後に
 2018年9月29日に開催された日本弁護士連合会主催の司法シンポジウムでパネリスト登壇された、最高裁判所の元判事で現役の弁護士がお話しされた中で極めて印象的な発言がありました。
⇒法廷のテレビ中継を行う:(米国・韓国)等で行われているので参考にすべき。
 (韓国では、検閲後に裁判所のHPで視聴できる)
⇒守秘義務撤廃:米国の陪審裁判では守秘義務は無い

 裁判員制度がスタートして来年で10年…節目に相応しい裁判員制度改正がなされて、市民が積極的に参加し易い制度になる事を祈念します。
 (凶悪犯罪が減って裁判員裁判が不要になる平和な世になるのが理想ですが…)

◆高橋博信(たかはし ひろのぶ)さんのプロフィール

1961年12月に岩手県警察官の長男として生まれる。
1979年4月・理系大学に入学の為に上京、卒業後は電機系の商社に就職し今に至る。
幼少期は、父の職業に憧れて警察官を夢見ていたが、エレクトロニクス業界が全盛期を迎えた時期でもあり司法とは縁遠い職に就く…しかし、裁判員制度が開始されて1年後、裁判員候補者通知が届き何となく選任される予感が…2011年5月に選任手続きへの通知、6月中旬に裁判員選任される。






 
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